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第1回: 序論 ─ なぜ今、私がこれを書くのか

哲学エッセイ

第1回: 序論 ─ なぜ今、私がこれを書くのか

「AIが仕事を奪う」

この言葉を聞くたびに、私は既視感を覚える。

技術が変わるたびに、同じことを言う人がいた。結局、生き残るのは「自分は何者か」を知っている者だった。

私は37歳。高卒。学歴なし。通信工事の現場から始まり、5G屋内建設の仕様策定、そして今は独立してプロジェクトマネジメントに携わっている。

高卒であることを恥じたことはない。むしろ、大学に4年間通う代わりに、現場で4年間手を動かした。この差は大きい。

18歳で社会に出た私は、22歳の新卒が入社してくる頃には、すでに現場を一人で回していた。

AI時代の哲学を、なぜ大学教授ではなく現場技術者の私が書くのか。


震災の朝

2011年3月11日。

私は東京にいた。コスモシステムという会社に転職して、2週間目だった。

宮城から東京への転勤を機に結婚し、新生活が始まったばかりだった。

14時46分。揺れが来た。

故郷の気仙沼が津波に飲まれるのを、テレビで見た。

翌日から、災害対応に駆り出された。電源車の手配、燃料の確保、発電機の調達、食料の手配。

何が正しいか分からない。マニュアルはない。上司の指示は矛盾だらけ。

そして、パワハラが始まった。

2ヶ月後、私は壊れた。診断書を取って、辞めた。


問いが生まれた場所

あの経験から、一つの問いが生まれた。

「人間は、なぜ同じ過ちを繰り返すのか」

災害のたびに混乱する組織。技術が変わるたびに騒ぐ人々。歴史を見れば、同じパターンが繰り返されている。

農耕革命で「所有」が生まれ、不平等が生まれた。

産業革命で「労働」が変わり、疎外が生まれた。

情報革命で「接続」が可能になり、新たな孤独が生まれた。

そして今、AI革命。

「AIが仕事を奪う」と騒ぐ声が聞こえる。

私には、既視感がある。


19歳の現場

高校を卒業して、すぐに働き始めた。

株式会社キョーワテクノ。変電所の通信工事、NTTドコモの光ケーブル敷設。

19歳で、KDDI基地局の登録点検業務を任された。テストに合格して、東北6県を後輩と巡回した。

先輩は「現場に運転してきて、あとはこち亀を読む人」だった。

私は一人で現場を回した。無線機の法令点検、夜間対応、緊急対応、クレーム対応。草刈りまで。

分からないことだらけだった。

しかし、そこで学んだ。

「観察すれば理解できる」

「信用とは相手の時間を買うこと」

「正解がない場面で、判断する力」

これらは、どんな技術が来ても変わらない。

大学では教えてくれないことだった。


楽天モバイルでの経験

30歳を過ぎて、株式会社Gardensに入った。建設部の立ち上げを任された。

建設業許可の取得、法令整備、CAD、協力会社の構築。ゼロから作った。

そして2020年12月、楽天モバイルに出向した。

屋内建設仕様をゼロから策定した。全国展開。関連部署との個別交渉。

組織摩擦を経験した。

「組織は正しさより順序を重視する」

これを痛感した。

技術的に正しいことが、組織的に正しいとは限らない。

人間の集団には、論理とは別の力学が働く。

これも、大学では教えてくれないことだった。


「人間は変わらない」という発見

歴史を学ぶほど、確信が深まった。

技術は変わる。社会は変わる。

しかし、人間の本質は変わらない。

紀元前のソクラテスが問うた問いを、私たちは今も問い続けている。

老子が見抜いた「変化の中の不変」は、AI時代にも当てはまる。

ストア派が教えた「制御できるものへの集中」は、今日も有効だ。

2500年間、人間は何も変わっていない。

だからこそ、歴史から学べる。


本連載の目的

本連載は、二つのことを伝えたい。

第一に、「人間は変わらない」という事実。農耕革命から情報革命まで、技術がどれだけ変わっても、人間の欲求は変わらなかった。承認を求める。安心を求める。意味を求める。

第二に、「だからどう生きるか」という問い。「人間とは何か」で終わる本は多い。本連載は「だからどうする」まで書く。抽象論ではなく、現場技術者としての具体論を語る。


次回予告

第2回では「農耕革命」を取り上げる。

人類が定住を始めたとき、「所有」という概念が生まれた。

ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』で、農耕革命を「人類最大の詐欺」と呼んだ。

しかし、私はそこにもう一つの視点を加えたい。

「未来」という概念が生まれた。

今を失う代わりに、未来を手に入れた。

この構造は、AI時代にも繰り返されている。