型を嫌う現代人 ─ なぜ「自分らしさ」が見つからないのか
型を知らずに自由にはなれない
「自分らしく生きたい」という呪い
「型にはまるな」 「自分らしく生きろ」 「個性を大切に」
現代社会は、こうしたメッセージで溢れている。
学校では「みんな違って、みんないい」と教わる。 会社では「あなたらしさを活かして」と言われる。 SNSでは「自分らしく生きている人」が称賛される。
でも、多くの人がこう思っている。
「自分らしさって、何だろう」
自分らしく生きたい。でも、自分らしさが分からない。 個性を出したい。でも、何が個性か分からない。 オリジナルでありたい。でも、何がオリジナルか分からない。
「自分らしく」と言われるほど、迷走する。
これは、呪いに近い。
型を嫌う理由
なぜ、現代人は「型」を嫌うのか。
「個性が潰される」
型にはまると、自分が消える気がする。みんなと同じになる気がする。
「古い、堅い」
型は過去のもの。今の時代には合わない。もっと自由でいい。
「窮屈だ」
型通りにやるのは息苦しい。もっと自分のやり方でやりたい。
こうした理由で、型を避ける。 型を学ばず、最初から「自分流」でやろうとする。
でも、考えてみてほしい。
型のない自由は、本当に自由だろうか。
ルールのないゲームは楽しいだろうか。 基礎のないスポーツは上達するだろうか。 文法のない言語は通じるだろうか。
型がないのは、自由ではない。 型がないのは、混沌だ。
守破離という知恵
日本には「守破離」という言葉がある。
茶道を大成した千利休が残した、成長の原則だ。 能楽の世阿弥も、同じことを説いている。 武道、芸道、日本の伝統には、この考え方が根付いている。
守(しゅ) ─ 型を守る
師の教えを忠実に守る。 言われた通りにやる。 自分の考えは入れない。 「なぜ」より、まず「やる」。
破(は) ─ 型を破る
他流を研究し、良いものを取り入れる。 自分なりの工夫を加える。 型の「意味」を理解する。 「なぜこの型なのか」を問う。
離(り) ─ 型から離れる
型を超えて、自分だけの表現に至る。 型に囚われず、型を内包する。 自由自在、臨機応変。 考えなくても、自然と動く。
大事なのは、順番だ。
守 → 破 → 離。
この順番を飛ばすことはできない。
型を知らない「離」は存在しない
ピカソを知っているだろうか。
キュビズムという前衛的な画風で知られる画家。 顔が歪んでいたり、複数の視点が混ざっていたり。 「こんなの子供でも描ける」と言う人もいる。
でも、ピカソの若い頃の絵を見たことがあるだろうか。
驚くほど写実的だ。 正確で、緻密で、古典的な技術が完璧に習得されている。
ピカソは、型を極めた人だった。 型を極めたからこそ、型を超えられた。
ジャズの即興演奏も同じだ。
自由に聞こえるジャズの名手たち。 でも、彼らはクラシックの基礎を徹底的に学んでいる。 音楽理論を熟知している。 型があるから、型を外せる。
イチローのルーティンを見たことがあるか。
打席に入る前の一連の動作。 毎回、寸分たがわず同じ動きをする。 あれは「型」だ。
型があるから、一流になれた。 型があるから、どんな場面でも揺るがない。
型を知らないで「離」に至った人は、一人もいない。
現代社会での守破離
守破離は、武道や芸道だけの話ではない。 現代の仕事、人間関係、生き方にも当てはまる。
仕事
守:基礎スキルを身につける。マニュアルを覚える。先輩の真似をする。 破:自分なりの工夫を加える。効率化する。新しい方法を試す。 離:自分だけのスタイルを確立する。後輩に教えられる。
人間関係
守:礼儀を学ぶ。敬語を使う。相手を立てる。 破:相手に合わせた対応をする。形式を崩しても失礼にならない距離感。 離:自然体でいても、相手が心地よい。何も考えなくても、適切にふるまえる。
生き方
守:社会のルールを守る。親の言うことを聞く。常識に従う。 破:自分の価値観を形成する。常識を疑う。取捨選択する。 離:自分らしく生きながら、社会と調和している。自由でありながら、責任を果たす。
全てに守破離がある。 全てに順番がある。
「自分らしさ」は型の先にある
「自分らしく生きたい」
その気持ちは分かる。
でも、「自分らしさ」は最初からあるものではない。
型を学び、型を破り、型を超えた先にある。
最初から「自分らしさ」を探しても、見つからない。 型を避けて「オリジナル」を目指しても、ただの自己流になる。
ピカソは、写実画を極めた先に、キュビズムを見つけた。 イチローは、素振りを極めた先に、唯一無二のバッティングを見つけた。
型を知らずに自由にはなれない。 型を経てこそ、本当の自分に出会える。
ここまでの気づき
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型を知らずに自由にはなれない ─ 型がないのは自由ではなく混沌
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守破離には順番がある ─ 守 → 破 → 離。飛ばせない
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「自分らしさ」は型の先にある ─ 最初からあるものではない
次回は「守」の価値について。
基礎練習は退屈だ。 型通りにやるのは面白くない。 早く応用をやりたい。
でも、「守」を飛ばした人は、必ずどこかで行き詰まる。
(第2回へ続く)