AI PMツール選定:AIより単純なルールが勝った例
AI PMツール選定:AIより単純なルールが勝った例
いま起きていること
ツールを選ぶ前に、AIが要るかどうかを測る必要がある。 パンダオフィスの記録から、3つの事実を挙げる。
- 2026年9月17日、メール仕分け:AIを入れるかどうかを、実データで測ってから決めた。人が正解を付けた148の送信者で、送信者だけを見る単純なルールは142件、96%を当てた。AIは、ラベルごとに同数をそろえた6件の試験で3件、50%しか当てられず、通知すべき2件を両方落とした。1件の判定に13.8秒かかった。メール仕分けへのAIの投入は見送った。
- 他社のコーディングAIへの乗り換え:2026年3月に比較して試したが、乗り換えなかった。私が挙げる理由は、ルール、手順書、フック、常駐の仕組みを積み上げてあり、移るコストが大きいことだ。
- 試してやめたツール:やめた理由で最も多かったのは、結果が安定しないことだった。同じ指示でも出来がばらつき、作り直しが多い。
外の動きは、選定の軸を変えつつある。2026年10月、Google は業務用の Gemini agent を発表し、エージェントごとのID、役割に応じた権限、エージェント名義の監査ログを備えた。Microsoft の Agent 365 は2026年5月に一般提供が始まり、自社・他社のエージェントを観測し、統制し、保護する管理基盤を提供する。接続の規格である MCP は、2026年7月28日の版でステートレス化と認可の強化を行い、非推奨化には最低12か月の猶予を置くとした。
(出典:自社の実測記録 2026-09-17/自社の運用記録 2026-10/Google Cloud「Gemini at Work 2026」2026-10-08/Microsoft「Agent 365」2026-05-01/MCP 仕様 2026-07-28 版)
PMの仕事で何が変わるか
ツール選定は、機能表の比較から始まることが多い。AIが入ると、比較する項目の重みが変わる。
機能の多さは、AIが埋めてくれる。人が操作する画面を作り込む価値は下がる。代わりに重くなるのは、次の問いである。
- それは、AIが必要な仕事か。 送信者で決まる仕事に、AIの出番はない。AIは、その相手が誰なのかを知らない
- 誰が何をしたか、あとから辿れるか。 動いているエージェントが、何を読み、何を書き、何を実行したか
- 移るとき、何を失うか。 ツールを替えるとき、積み上げた設定やルールがそのまま使えるか
3つ目は見落とされやすい。主力のモデルは、パンダオフィスでも約2か月ごとに替わった。モデルは替えられても、周りに積んだ仕組みは替えにくい。仕組みが厚いほど、乗り換えは遠のく。それ自体は悪くない。ただし、選ぶ時点で織り込んでおく必要がある。
PMBOK-AIではこう扱う
パンダオフィスでは、ツールとAIの導入を、次の7つの軸で見る。
| 軸 | 見ること | 実例 |
|---|---|---|
| ID | エージェントごとに識別できるか | 外部の業務用エージェントが製品機能にし始めた |
| 権限 | 操作単位で絞れるか。渡さない設計ができるか | 経理の実験では、実行の権限を渡さない設計が事故を止めた |
| 操作記録 | エージェント名義で辿れるか | 自社では稼働ログを常駐プロセスが残している |
| 支出上限 | 上限に達したとき、通知か停止か | 本番を止める設定は、同居する他の本番まで止めうる。報道では、案件ごとの支出上限もある |
| MCP対応 | 接続の規格に乗っているか。版が替わったときの猶予は | 非推奨化に最低12か月の猶予がある |
| 結果の安定性 | 同じ指示で、同じ出来になるか | 試してやめたツールの最多の理由 |
| 移行コスト | 替えるときに、積んだ仕組みが残るか | 乗り換えなかった最大の理由 |
(出典:各社・各機関の公式発表。Google の案件ごとの支出上限は報道による)
このうち、機能の一覧に出てこないのが、結果の安定性と移行コストである。どちらも、使ってみて初めて分かる。
結果の安定性は、設計でも上げられる。 漫画の作画では、2026年6月28日に、使っていた作画サービスをやめ、画像生成AIの Nano Banana Pro に替えた。替えたあとの手順は、キャラクターを既存の画像の参照で固定し、生成した絵の中には文字を描かせず、吹き出しの文字は後からHTMLで載せる形にした。AIに描かせると崩れるものは、AIに描かせない。ばらつきの出る部分を、仕組みの側で取り除いた。
移行コストは、仕組みの書き方で変わる。 自社では、2026年8月に、ルールからモデルの名前を外し、「モデルは名前でなく役割で選ぶ」と書き直した。モデルの名前で書いたルールは、主力が替わるたびに古くなる。役割で書けば、ツールを替えたときに残る。
メール仕分けの判断は、導入前の測定の例である。ニュースの選別は、人とAIの一致率が70%で止まったが、並べ替えに使い方を変えて、31件を93秒で並べ、上位8件が8件続けて当たった。同じAIでも、仕事の性質で、入れる場所が変わる。
明日からやること
- 導入を考えている仕事を、単純なルールや表で何%決められるか、AIの前に測る
- 試したツールを、「結果が安定しないか」で見直す。同じ指示を複数回出して、出来のばらつきを記録する
- 乗り換えを検討するときは、機能の差より先に、積んだ仕組み(ルール、手順書、フック、常駐)を書き出し、何が残り、何を作り直すかを数える
- 評価表に、ID、権限、操作記録、支出上限、MCP対応の列を足す
- ルールや手順書に、特定のモデル名が書かれていないかを検索し、役割の言葉に直す
まとめ
ツール選定は、機能の比較から、AIが要るかの測定、統制の確認、結果の安定性、移行コストの見積もりへ移る。選ぶ前に測り、乗り換える前に積んだ仕組みを数える。
