#15分

JCペニーが「値下げ」で死んだ話

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JCペニーが「値下げ」で死んだ話

JCペニーが「値下げ」で死んだ話

「安くすれば売れる」は嘘だ

ビジネスを始めたばかりの人ほど、この罠にはまる。

「安くすれば、もっと売れるはず」

「価格で勝負すれば、競合に勝てるはず」

しかし、過去20年のマーケティング史を振り返ると、値下げによって死んだブランドの数は、値上げによって死んだブランドより圧倒的に多い

その象徴的な事例が、2012年のJCペニーだ。


アップル元幹部の「正攻法」が招いた壊滅

2011年、米百貨店JCペニーは、AppleのリテールトップだったRon Johnsonを新CEOに迎えた。

Johnsonは、Appleストアを成功させた立役者だ。誰もが「JCペニー復活劇」を期待した。

Johnsonが打ち出した戦略は、シンプルだった。

「Fair & Square Pricing(公正で四角四面の価格)」

それまでJCペニーが多用していた「定価から大幅値引き」をやめ、最初から低い「公正価格」を提示するという戦略だった。

理屈は通っていた。

「値引きで釣るのではなく、最初から納得できる価格にすれば、顧客は信頼してくれるはず」

しかし、結果は壊滅的だった。

指標戦略実施前1年後
年間売上約170億ドル約128億ドル(−25%)
既存店売上基準−31.7%
株価$42$19以下
CEO在任期間17ヶ月で解任

1年で売上が4分の1消えた。

なぜか。


顧客は「値引き」を買っていた

Johnsonが気づいていなかったこと。

JCペニーの顧客は、「商品」を買っていたのではなく、**「値引きされた商品を買う体験」**を買っていた。

「定価100ドルが、今だけ49ドル!」

この「お得感」こそが、顧客にとっての価値だった。

最初から49ドルで売られると、同じ価格でも「お得感」が消える。

顧客は「これは特別な買い物だ」と感じられなくなった。

結果、店から客足が遠のいた。

人は「価格」だけでなく、「値引きされた感覚」を買っている。


Gapも同じ罠にはまった

JCペニーだけではない。

2010年、Gapはロゴを変更し、ブランドの再構築を試みた。「シンプルで現代的なイメージ」を打ち出した。

結果、顧客から猛反発を受けた。

新ロゴはわずか6日で撤回された。

「変わらないでくれ」という顧客の声が、変革を止めた。

ブランドは、顧客が「変わってほしくない約束事」の集合体だ。

価格や見た目を「合理的に」変えると、その約束を破ったと受け取られる。


シアーズの長い死

百貨店の老舗シアーズは、もっとゆっくり死んだ。

1990年代から「常時低価格」を試みた。

しかし、低価格に振ったことでブランドイメージが崩壊した。

「シアーズで買う=安物を買う」という認識が広がった。

中高所得層が離れ、低所得層だけが残った。

利益率は下がり続けた。

2018年、シアーズは経営破綻した。


値下げは、何を奪うか

3つの事例に共通するのは、値下げが奪ったものだ。

奪われたもの影響
ブランド体験「特別な買い物」の感覚が消えた
顧客の自尊心「いい買い物をした」という満足感がなくなった
価格の信頼性「いつ値引きが来るか」と顧客が待つようになる
利益率値下げ依存で経営が圧迫される

値下げは、短期売上を上げる代わりに、長期のブランド価値を破壊する。


「公正価格」という美しい嘘

Johnsonの「公正価格戦略」は、論理的には正しかった。

「値引きで釣るのは、顧客を欺くようなものだ」

「最初から本当の価格を提示すべきだ」

倫理的には立派な姿勢だ。

しかし、マーケティングは倫理ではない。人間の心理に従う技術だ。

人は「お得」を求める。

人は「特別」を求める。

人は「賢く買えた」と感じたい。

値下げ戦略は、これらの心理を利用していた。

公正価格戦略は、その心理から目を背けた。

だから、失敗した。


終わりに

値下げは、ブランドを殺す。

JCペニーは1年で消えかけた。Gapは6日で変革を撤回した。シアーズは20年かけて死んだ。

では、値上げはどうか。

次回は、人が「価格」を見て「価値」を判断するメカニズムを、実験データから検証する。