値上げで売れた商品の共通点
値上げで死ぬ会社、値上げで栄える会社
値上げは恐怖だ。
「客が離れるのではないか」
「競合に持っていかれるのではないか」
しかし、現実を見ると、値上げを繰り返しながら売上を伸ばし続けている企業は多数ある。
代表例を見ていこう。
Apple:iPhoneは7年で2割上がった
iPhoneの価格推移は驚異的だ。
| 年 | モデル | 米国販売価格(最上位機種) |
|---|---|---|
| 2017 | iPhone X | $999 |
| 2019 | iPhone 11 Pro Max | $1,099 |
| 2021 | iPhone 13 Pro Max | $1,099 |
| 2023 | iPhone 15 Pro Max | $1,199 |
| 2024 | iPhone 16 Pro Max | $1,199(1TBは$1,599) |
それでもAppleの売上は伸び続けている。
2017年の年間売上:約2,290億ドル 2024年の年間売上:約3,910億ドル(+71%)
iPhone単体の販売台数はほぼ横ばい、または微減。
しかし、価格を上げ続けることで売上を伸ばしている。
スターバックス:コーヒーが「体験」になった理由
1990年代、コーヒー1杯は1ドル前後が相場だった。
スターバックスは、エスプレッソ系ドリンクを3〜5ドルで提供した。
「コーヒー1杯に5ドル?」
当時、誰もが疑問に思った。
しかしスターバックスは、価格にこだわらなかった。
代わりに、3つを売った。
| 売っているもの | 価格を正当化する要素 |
|---|---|
| 居場所(Third Place) | カフェ=家でも職場でもない第三の場所 |
| 体験 | バリスタとの会話、店内BGM、カップに書かれた名前 |
| アイデンティティ | 「スタバを飲む自分」というライフスタイル |
価格は、それらの「対価」だった。
2025年、ラテのトールサイズは日本で500円超え、米国では5〜6ドルが普通になった。
それでも、世界中の店に行列がある。
エルメス:値上げを公言しても売れる
エルメスは、毎年のように値上げを行う。
それを隠さない。
「我々は職人の労働、原材料の高騰、希少性に応じて価格を見直します」と公言する。
代表商品「バーキン」の価格推移は以下の通り。
| 年 | バーキン25cm(基本)米国価格 |
|---|---|
| 2010 | 約7,400ドル |
| 2018 | 約10,000ドル |
| 2022 | 約11,400ドル |
| 2024 | 約12,100ドル超 |
中古のバーキンは、新品より高く取引されることもある。
なぜか。
新品を買うには、エルメスでの「購入実績」が必要だからだ。
「値段を払えば買える」のではなく、「値段を払う資格を得ないと買えない」。
これが、価格戦略の極致だ。
パテック・フィリップ:広告で「世代」を売った
スイスの時計メーカー、パテック・フィリップ。
世界で最も高価な腕時計のひとつだ。
定番モデル「ノーチラス 5711」は、定価約3.5万ドルだが、二次市場では10万ドル超で取引されることがある。
このブランドの広告コピーは有名だ。
"You never actually own a Patek Philippe. You merely look after it for the next generation." (あなたはパテック・フィリップを所有することはできない。次世代のために預かるだけだ。)
時計を「世代を超える資産」として位置づけた。
値段の正当化を、機能ではなく、時間という概念で行った。
共通点:価格を「コスト」ではなく「アイデンティティ」として扱う
4つの事例に共通するものは何か。
| 観点 | 値下げで死ぬブランド | 値上げで栄えるブランド |
|---|---|---|
| 価格の意味 | 機能の対価 | アイデンティティの宣言 |
| 競争の軸 | 同業他社との比較 | 自社の世界観 |
| 顧客との関係 | 取引相手 | 共犯者・信者 |
| 値下げへの態度 | 売上維持の手段 | ブランド毀損の禁忌 |
| 商品の存在意義 | ニーズを満たす | 物語を提供する |
値上げで栄えるブランドは、価格を「自分は何者か」の宣言として使っている。
値上げが許される3つの条件
これらの企業に共通する、値上げが許される条件をまとめると以下になる。
条件1:物語を持っている
商品の背後に、ブランド固有の物語がある。
Appleなら「テクノロジーの民主化」。エルメスなら「職人の手仕事」。スターバックスなら「第三の場所」。
物語がない商品は、価格でしか比較されない。
条件2:代替できない要素を持つ
同じ機能の商品は、いくらでもある。
しかし、「Appleのデザイン哲学」「エルメスの希少性」「スターバックスの店内体験」は、他社が真似できない。
代替不可能性が、価格を支える。
条件3:顧客が「自己投影」できる
顧客が「これを持つことで、自分がどう見られるか」を意識する商品は、価格弾力性が低い。
iPhoneを持つ自分。スタバを飲む自分。エルメスを身につける自分。
商品が「自己表現の手段」になっている。
終わりに
値上げで売れた商品は、特殊な才能で売れたのではない。
価格に「意味」を持たせることに成功したから売れた。
意味のない値上げは、ただの暴挙だ。
しかし、意味のある値上げは、ブランドを強くする。
次回は、その逆—「安く売る」ことが招く5つの罠を検証する。