#36分

値上げで売れた商品の共通点

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値上げで売れた商品の共通点

値上げで売れた商品の共通点

値上げで死ぬ会社、値上げで栄える会社

値上げは恐怖だ。

「客が離れるのではないか」

「競合に持っていかれるのではないか」

しかし、現実を見ると、値上げを繰り返しながら売上を伸ばし続けている企業は多数ある

代表例を見ていこう。


Apple:iPhoneは7年で2割上がった

iPhoneの価格推移は驚異的だ。

モデル米国販売価格(最上位機種)
2017iPhone X$999
2019iPhone 11 Pro Max$1,099
2021iPhone 13 Pro Max$1,099
2023iPhone 15 Pro Max$1,199
2024iPhone 16 Pro Max$1,199(1TBは$1,599)

それでもAppleの売上は伸び続けている。

2017年の年間売上:約2,290億ドル 2024年の年間売上:約3,910億ドル(+71%

iPhone単体の販売台数はほぼ横ばい、または微減。

しかし、価格を上げ続けることで売上を伸ばしている


スターバックス:コーヒーが「体験」になった理由

1990年代、コーヒー1杯は1ドル前後が相場だった。

スターバックスは、エスプレッソ系ドリンクを3〜5ドルで提供した。

「コーヒー1杯に5ドル?」

当時、誰もが疑問に思った。

しかしスターバックスは、価格にこだわらなかった。

代わりに、3つを売った。

売っているもの価格を正当化する要素
居場所(Third Place)カフェ=家でも職場でもない第三の場所
体験バリスタとの会話、店内BGM、カップに書かれた名前
アイデンティティ「スタバを飲む自分」というライフスタイル

価格は、それらの「対価」だった。

2025年、ラテのトールサイズは日本で500円超え、米国では5〜6ドルが普通になった。

それでも、世界中の店に行列がある。


エルメス:値上げを公言しても売れる

エルメスは、毎年のように値上げを行う。

それを隠さない。

「我々は職人の労働、原材料の高騰、希少性に応じて価格を見直します」と公言する。

代表商品「バーキン」の価格推移は以下の通り。

バーキン25cm(基本)米国価格
2010約7,400ドル
2018約10,000ドル
2022約11,400ドル
2024約12,100ドル超

中古のバーキンは、新品より高く取引されることもある。

なぜか。

新品を買うには、エルメスでの「購入実績」が必要だからだ。

「値段を払えば買える」のではなく、「値段を払う資格を得ないと買えない」。

これが、価格戦略の極致だ。


パテック・フィリップ:広告で「世代」を売った

スイスの時計メーカー、パテック・フィリップ。

世界で最も高価な腕時計のひとつだ。

定番モデル「ノーチラス 5711」は、定価約3.5万ドルだが、二次市場では10万ドル超で取引されることがある。

このブランドの広告コピーは有名だ。

"You never actually own a Patek Philippe. You merely look after it for the next generation." (あなたはパテック・フィリップを所有することはできない。次世代のために預かるだけだ。)

時計を「世代を超える資産」として位置づけた。

値段の正当化を、機能ではなく、時間という概念で行った。


共通点:価格を「コスト」ではなく「アイデンティティ」として扱う

4つの事例に共通するものは何か。

観点値下げで死ぬブランド値上げで栄えるブランド
価格の意味機能の対価アイデンティティの宣言
競争の軸同業他社との比較自社の世界観
顧客との関係取引相手共犯者・信者
値下げへの態度売上維持の手段ブランド毀損の禁忌
商品の存在意義ニーズを満たす物語を提供する

値上げで栄えるブランドは、価格を「自分は何者か」の宣言として使っている。


値上げが許される3つの条件

これらの企業に共通する、値上げが許される条件をまとめると以下になる。

条件1:物語を持っている

商品の背後に、ブランド固有の物語がある。

Appleなら「テクノロジーの民主化」。エルメスなら「職人の手仕事」。スターバックスなら「第三の場所」。

物語がない商品は、価格でしか比較されない。

条件2:代替できない要素を持つ

同じ機能の商品は、いくらでもある。

しかし、「Appleのデザイン哲学」「エルメスの希少性」「スターバックスの店内体験」は、他社が真似できない。

代替不可能性が、価格を支える。

条件3:顧客が「自己投影」できる

顧客が「これを持つことで、自分がどう見られるか」を意識する商品は、価格弾力性が低い。

iPhoneを持つ自分。スタバを飲む自分。エルメスを身につける自分。

商品が「自己表現の手段」になっている。


終わりに

値上げで売れた商品は、特殊な才能で売れたのではない。

価格に「意味」を持たせることに成功したから売れた。

意味のない値上げは、ただの暴挙だ。

しかし、意味のある値上げは、ブランドを強くする。

次回は、その逆—「安く売る」ことが招く5つの罠を検証する。