第1回:最もホットなプログラミング言語は「英語」だ ─ 時代が変わった
「The hottest new programming language is English.」
最もホットなプログラミング言語は英語だ。
2023年1月。この発言が業界を震撼させた。
言ったのは、OpenAIとテスラで自動運転を率いたAI研究者、アンドレイ・カルパティだ。
この発言はDeepLearning.AIでも取り上げられ、「プログラミングスキルの意味」を問い直す議論を巻き起こした。
冗談じゃない。
これは比喩だ。でも、この比喩が出るくらい、世の中が変わってきたということだ。
冗談ではない。本気の発言だ。
数字が証明する革命
「言葉でプログラミング」は、すでに巨大な産業になっている。
Precedence Researchによると、ローコード・ノーコード市場は2024年に約105億ドル。これが2034年には824億ドルまで成長する。年平均成長率22.92%。
Statistaのデータでは、2024年に287.5億ドル、2032年には2,644億ドルという予測もある。
どの予測を見ても、爆発的な成長だ。
さらに衝撃的な数字がある。
Gartnerの予測によると:
- 2025年までに、企業が開発する新規アプリの70%がローコード/ノーコードで作られる(2020年は25%以下だった)
- 2025年までに、シチズンデベロッパー(非エンジニアの開発者)がプロの開発者の4倍になる
「プログラミングはエンジニアの仕事」
この常識が、すでに崩れ始めている。
AIコーディングツールの実力
GitHub Copilotの効果を測定した研究がある。
結果は驚異的だった。
- Copilotを使った開発者は、タスク完了が55%速かった
- 使用者:平均1時間11分で完了
- 非使用者:平均2時間41分で完了
GitHub Resourcesによると、開発者の体験はこう変わった:
- **73%**が「フロー状態を維持できる」と回答
- **87%**が「反復作業の精神的負担が減った」と回答
- **81%**が「タスクをより速く完了できる」と回答
そして今、GitHub Copilotのユーザーは1,500万人を超えた。1年で4倍に増加。Fortune 100企業の90%が採用している。
コードは、自動生成される時代になった。
非エンジニアが作ったアプリの実例
理論だけじゃない。実際に非エンジニアがアプリを作り、成功している。
Bubbleというノーコードプラットフォームで作られた「Piershare」。ボートの係留場所を貸し借りするアプリだ。いわば「ドックのAirbnb」。
結果は?
- ローンチ後1年でユーザー400%増
- 6ヶ月で1,000件以上のドックレンタル成約
プログラミングの知識がなくても、ビジネスを作れた。
Design Monksのレポートによると、2024年時点でBubbleで作られたアプリは510万以上。年間26.5億回以上のワークフローが実行されている。
大企業でも動きがある。
Unileverは非技術者がMicrosoft Power Appsで安全管理アプリを作った。ITチームに依頼せず、現場の社員が自分で作った。
Globe Telecomは「シチズンデベロッパー・プログラム」を導入し、非エンジニアが社内の小さな自動化ニーズを自分で解決できる体制を作った。Forresterがケーススタディとして取り上げている。
彼らに共通するのは何か?
「何を作るか」を設計できたこと。そして、それを伝えられたこと。
コーディングスキルではない。
ここに気づいてほしい。
何が変わったのか
ここまでのデータで、何が見えるか?
価値の源泉が変わった。
昔:「コードを書ける」= 価値
今:「何を作るか」を設計し、伝えられる = 価値
AIはコードを書ける。でも、「何を作るか」は決められない。
Frontiers in Educationに掲載された研究も同じ結論だ。
「AIはコードを生成できる。でも、何を作るかは人間が決める必要がある」
コーディングはAIが担当する。設計は人間の仕事になる。
そういうことだ。
設計・言語化・コミュニケーション
では、「何を作るか」を決め、実現するには何が必要か?
三つの能力だ。
1. 設計能力
ゴールを明確にする。制約を理解する。優先順位を決める。分解して構造化する。
これはプロジェクトマネジメントの能力だ。要件定義、スコープ管理、優先順位付け。
2. 言語化能力
頭の中の「なんとなく」を、具体的な言葉に変換する。
AIは「いい感じにして」を理解しない。
「ボタンを右上に配置、フォントは14px、クリックで確認ダイアログ表示」
こう伝えれば動く。
3. コミュニケーション能力
AIだけじゃない。チーム、顧客、経営層。人を動かす必要がある。
設計を通す。合意を取る。フィードバックを受け止める。
プロジェクトは一人では完結しない。
設計 × 言語化 × コミュニケーション = イメージを具現化できる人
これが、AI時代に価値を持つ人材だ。
注意点も押さえておこう
ただし、過信は禁物だ。
Stack Overflowの2024年開発者調査では、AIツールへの満足度が低下傾向にある。43%しかAIツールの精度を信頼していない。複雑な開発タスクでは45%が「悪い、または非常に悪い」と評価。
Microsoftの研究では、AIコーディングツールの生産性向上を実感するまでに約11週間かかるという。最初は逆に生産性が落ちることもある。
DeepLearning.AIも指摘している:
「英語とプログラミング言語の両方を話せる『マルチリンガル』は、プロンプトだけの人より遥かに多くのことができる」
つまり、設計・言語化・コミュニケーション能力 + 基礎的な技術理解が最強の組み合わせだ。
どんな世界が待っているか
数字に基づいて予測しよう。
1. 「思いついたら即プロトタイプ」の世界
2025年までに新規アプリの70%がローコード/ノーコードで作られる。
Kissflowによると、ローコードプラットフォームを使えば開発時間を最大90%削減できる。
企画からプロトタイプまでの時間が、劇的に短くなる。
2. 「全員がビルダー」の世界
シチズンデベロッパーがプロの開発者の4倍になる。
デザイナーが自分でアプリを作る。マーケターが自分で分析ツールを作る。経理が自分で自動化システムを作る。
「エンジニアに頼む」という発想自体が減っていく。
3. 「イメージが価値になる」の世界
Tadabaseは指摘する:シチズンデベロッパーとは「ビジネスニーズを理解し、ローコードプラットフォームを使って動くアプリケーションを開発できるドメインエキスパート」だ。
コーディングがコモディティ化すれば、何を作るかが差別化になる。
「こういうものがあったらいいのに」
その発想力と、それを具現化する能力が、直接価値になる。
次回予告
「英語が最もホットなプログラミング言語」
この比喩が出るくらい、時代は変わった。
では、AI時代に価値を持つ「設計能力」とは何か?
プロジェクトマネジメント、要件定義、スコープ管理。
「何を作るか」を決める能力が、なぜ今、再評価されているのか。
次回:「何を作るか」が価値になる ─ 設計力の時代
まとめ:3つの洞察
-
ローコード/ノーコード市場は2034年に824億ドル規模へ成長する
- コーディングは自動化され、「何を作るか」を決める人が価値を持つ
-
AIコーディングツールは開発速度を55%向上させる
- コードは自動生成される。設計・言語化・コミュニケーションが人間の仕事に
-
シチズンデベロッパーがプロ開発者の4倍になる
- イメージを具現化できる人が、世界を動かす時代が来る
Sources
- DeepLearning.AI - Coding Skill is More Valuable Than Ever
- Precedence Research - Low-Code Development Platform Market
- GitHub Blog - Research: Quantifying GitHub Copilot's Impact
- Index.dev - No-Code and Low-Code Statistics
- Goodspeed Studio - Bubble Success Stories
- Forrester - Globe's Low-Code Citizen Developer Program
- Second Talent - GitHub Copilot Statistics