忙しい時、人は「いつもの自分」を失う
不思議なことに、気づいたことはないだろうか。
忙しい時期ほど、普段できていたことができなくなる。
簡単な判断を間違える。
メールの返信が雑になる。
体調を崩す。
「忙しいから仕方ない」と、つい言いたくなる。
でも、本当に「忙しい」が原因だろうか。
認知資源という考え方
心理学者ダニエル・カーネマンは、人間の思考を二つに分けた。
「速い思考」と「遅い思考」。
速い思考は、直感で動く。
遅い思考は、じっくり考える。
そして、遅い思考には「認知資源」が必要だ。
集中力、注意力、判断力。
これらは、有限の資源だ。
使えば、減る。
休めば、回復する。
忙しい人は、この資源を使い切っている。
余裕がない人に、何が起きるか
行動経済学者センディル・ムッライナタンは、興味深い研究を残した。
『欠乏の行動経済学』。
時間がない、お金がない、余裕がない。
そういう状態の人は、判断力が低下する。
IQに換算すると、13ポイント下がるという。
これは、徹夜明けの脳と同じレベルだ。
忙しい時、人は「いつもの自分」より、ずっと愚かになっている。
順序が逆だ
「忙しいから、できなくなった」と人は思う。
でも、順序が逆だ。
忙しさによって認知資源が枯渇し、自分を失った。
自分を失ったから、普段できることができなくなった。
不調の原因は、「忙しさ」そのものではない。
「忙しさによって失われた自分」だ。
周囲との関係も壊れる
忙しい時の自分は、人にも雑になる。
メッセージへの返信が短くなる。
会話の途中で上の空になる。
家族との時間に、心がない。
そして、後から後悔する。
「もっと丁寧に向き合えばよかった」
でも、忙しい時には、そう思う余裕すらない。
人間関係が壊れるのは、時間がないからではない。
「心がそこにない」からだ。
余裕という土台
普段できていることは、実は「余裕」という土台の上に立っている。
挨拶ができる。
笑顔が出る。
人の話を聞ける。
これらは、当たり前に見えて、認知資源を使う行為だ。
土台が崩れた瞬間に、すべてが連鎖して崩れる。
「最近うまくいかない」と感じる時、原因は能力ではない。
余裕の不足だ。
終わりに
忙しさは、人を「いつもの自分」から引き剥がす。
引き剥がされた自分は、判断を間違え、人に雑になり、体を壊す。
そして気づく。
「忙しい」は、能力を奪う毒だ。
ならば、どうすればいいのか。