第1回:人は電波を出している ─ コミュニケーションの本質
「伝わらないのは、あなたのせいじゃない」
無線従事者として気づいたこと
私は長年、移動体通信業界にいた。
無線従事者として、電波、周波数、波長の専門家として働いてきた。
携帯電話がどうして繋がるのか。
電波がどうやって伝わるのか。
そういうことを、毎日考えてきた。
ある日、気づいた。
人間も「電波」を出しているのではないか?
いや、比喩じゃない。
本当にそっくりなのだ。
電波とは何か
電波とは何か?
目に見えない「波」だ。
送信機から発信されて、空間を伝わり、受信機で受け取る。
電波には特性がある。
周波数: 波が1秒間に何回振動するか。
波長: 波の山と山の間隔。
出力: 電波の強さ。
周波数が違えば、電波の性質が変わる。
AMラジオは中波。
FMラジオはVHF。
携帯電話はもっと高い周波数。
そして、大事なこと。
周波数が違うと、受信できない。
AMラジオで、FM放送は聞けない。
周波数が合っていないから。
人間も「波」を発している
人間のコミュニケーションを考えてほしい。
言葉、表情、態度、雰囲気。
すべてが「波」として発信されている。
相手に「届く」こともある。
「届かない」こともある。
「あの人の話は響く」
「あの人の話は入ってこない」
同じ言葉なのに、届く相手と届かない相手がいる。
同じ話なのに、響く人と響かない人がいる。
これは何なのか?
電波の特性で説明できる。
伝わる・伝わらないの謎
経験ないだろうか。
部下に何度も同じことを言う。
でも、全く響かない。
「なぜ分からないんだ」とイライラする。
子供に大事なことを伝える。
でも、右から左へ抜けていく。
「聞いてないのか」と怒る。
お客様に丁寧に説明する。
でも、納得してもらえない。
「どう言えばいいんだ」と悩む。
これらはすべて「伝わらない」経験だ。
なぜ伝わらないのか?
多くの人はこう考える。
「自分の説明が下手だから」
「相手が理解力がないから」
「もっと熱意を込めなきゃ」
違う。
電波伝搬の問題だ。
電波伝搬という視点
無線通信には「伝搬」という概念がある。
電波がどう伝わるか。
何に影響されるか。
電波は直進する。
でも、障害物があると反射する。
山があると回折する。
ビルがあると散乱する。
距離が離れると弱くなる。
周波数によって、伝わり方が変わる。
天候によっても変わる。
人間のコミュニケーションも同じ構造を持っている。
相手との「距離」。
相手の「障害物」。
相手の「周波数」。
相手の「アンテナ」。
これらを考えずに発信しても、届かない。
どんなに強い電波を出しても、届かない。
なぜこの視点が大事か
「伝わらない」と悩んでいる人は多い。
そして、自分を責める。
「もっと上手に話さなきゃ」
「もっと熱意を込めなきゃ」
「もっと努力しなきゃ」
でも、それは的外れかもしれない。
問題は「出力」じゃない。
問題は「周波数」かもしれない。
問題は「アンテナ」かもしれない。
問題は「伝搬経路」かもしれない。
無線通信では、まず「なぜ届かないのか」を分析する。
出力を上げるのは、最後の手段だ。
その前にやることがある。
人間のコミュニケーションも同じだ。
この連載で伝えたいこと
この連載では、電波伝搬の視点から人間のコミュニケーションを解き明かす。
第2回:周波数が合わないと届かない
相手の「周波数」とは何か。なぜ同じ言葉が人によって響き方が違うのか。
第3回:アンテナの長さが違う
相手の「アンテナ」とは何か。なぜ届いているのに受け取れないのか。
第4回:出力を上げても届かない理由
熱意(出力)を上げても解決しない問題がある。その正体とは。
第5回:伝搬経路を設計する
どうすれば伝わるのか。電波伝搬の設計思想をコミュニケーションに適用する。
ここまでの気づき
-
人間も「電波」を発している
- 言葉、表情、態度はすべて「波」として伝わる
-
伝わる・伝わらないには理由がある
- 努力不足でも、相手の問題でもない。電波伝搬の問題
-
電波伝搬の視点で、コミュニケーションが変わる
- 周波数、波長、アンテナ、出力。この視点で見ると、解決策が見える
次回予告
電波には周波数がある。
AMラジオとFMラジオは周波数が違う。
だから、AMラジオでFM放送は聞けない。
人間にも「周波数」がある。
世界観、価値観、経験。
これが「周波数」を決める。
周波数が合っていないと、どんなに叫んでも届かない。
次回は、「周波数」の話をする。
次回:「周波数が合わないと届かない ─ 相手の世界観」