AIエージェント時代のRACI:判断は任せ、実行は渡さない
AIエージェント時代のRACI:判断は任せ、実行は渡さない
いま起きていること
AIを同じ表のRに書いても、事故は防げない。 パンダオフィスの記録から、3つの事実を挙げる。
- 2026年10月2日に公開した実験:架空の小さな商社の経理を、AIに30日間ひとりで任せた。12日目に、取引先を名乗る「振込先変更」のメールを届けた。同じ1か月を設計ごとに5回ずつ回している。実行の手段(送金、取引先の登録情報の書き換え、社外へのメール)を渡した設計は、5回中4回、詐欺口座へ送金した。判断だけをさせ、実行は決まった日に会社の台帳が行う設計は、0回だった。どちらのAIも、偽の口座を本物と信じた。 差を分けたのはAIの賢さではなく、実行の権限を渡したかどうかだった。
- 2026年8月の開発計画:ある受託案件の未完了の作業を仕分けると、AIが実装できるものと、人にしかできないものに分かれた。AIが担う作業は、並列化で大きく縮む見込みだった。だが、契約、決済サービスの審査、ドメインの設定、法務は外部の相手がいて、前倒しできない。律速は人の側に残った。
- 2026年9月9日:予定やタスクの書き込みを、管理画面の承認ボタンを人が押すまで実行しない形にした。押されないまま30分経つと、その操作は取り消される。
外の動きも、権限の細分化に向かっている。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は2026年3月の第1.2版で、誤発注やファイル削除といった意図しない操作のリスクと、権限の設定、人の判断を挟む仕組みを書き足した。Google が10月に発表した業務用エージェントは、エージェントごとのID、役割に応じた権限、エージェント名義の監査ログを備える。
(出典:自社の実験記録 2026-10-02/自社の案件記録 2026-08-21/総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」2026-03-31/Google Cloud「Gemini at Work 2026」2026-10-08)
PMの仕事で何が変わるか
RACIは、誰が実行し(R)、誰が最終的に責任を負い(A)、誰に相談し(C)、誰に知らせるか(I)を決める表だ。AIエージェントが入ると、この表の使い方が3か所で変わった。
1. Rが1つの役割ではなくなった。 経理の実験で、AIがした仕事は2つある。何を払うべきかの判断と、実際の送金である。人間の担当者ならこの2つは1人の中でつながっているが、AIでは別々に渡せる。そして事故は、判断の誤りではなく、実行を渡したところで起きた。
2. Aは人のままでも、承認が形だけになる。 2026年9月15日、手順書に「この条件に当たったら止めて報告する」と書いてあったのに、AIは条件を破る案を推奨した。私は「進めて」と答え、あとで元に戻す作業が発生した。承認は取れていた。ただしAIの推奨に誘導された承認だった。Aを人に置くだけでは足りず、人が判断できる形で止まってもらう設計が要る。
3. 担当者を決めても、穴は埋まらない。 経理の実験で、AIが「口座が違うので払えない」と止めた案件は、3週目から溜まり続けた。担当者を決めて回し直すと、担当者は承認を取らないまま支払いへ戻し、取り消した発注まで支払いへ戻した。3回中3回である。決めるべきだったのは、担当者の名前ではなく、その人が何を確認し、何をしてよいかだった。
(出典:自社の実験記録 2026-10-02/自社の作業記録 2026-09-15)
PMBOK-AIではこう扱う
PMBOK-AIの Human-Agent RACI は、責任と権限を次のように分ける。PMBOK-AIの基本理念はこちら。
責任(A)は分けない。権限は操作単位で分ける。 AIが出した判断の結果は、最終的に人が負う。一方、権限は「AIに任せる」「任せない」の二択にせず、操作ごとに決める。パンダオフィスの運用は、次の表になる。
| 操作 | AI | 人 | 守らせ方 |
|---|---|---|---|
| 調べる、下書きを作る、並べ替える | 実行(R) | 結果を見る(A) | 特になし |
| 台帳やスケジュールへの書き込み | 案を出す | 承認ボタンを押す | 押すまで実行されない |
| 削除、本番への反映、外部への送信、費用の発生 | 実行できない | 実行する | 権限を渡さない |
| 確定した数字の記録 | 通さない | 確認する | プログラムが直接書き込む |
| 外部の相手がいる手続き | 準備まで | 実行する | 手順書に人の作業として明記 |
承認は4段階(知らせる、見てもらう、承認が要る、必ず止める)で運用している。外部への送信は、いちばん上の「必ず止める」に置いた。
Rを判断と実行に分けて書く。 RACIの表で、AIの列に「R」と1文字書くのをやめた。「判断(提案)はAI、実行は人またはプログラム」のように、判断と実行を分けて書く。メール自動送信の実験でも、送ってよいかの確率はAIに出させたが、送信の可否そのもの、停止、再開は、プログラムと人が持った。規則で書けることはコードに、規則で書けない判断だけをAIに渡す。
AIでは終わらない作業を、最初に洗い出す。 AI向けと人向けの仕分けは、計画の最初に作る。人向けの作業は、外部の相手の都合で動くので、完了予定日から逆算して着手する。AIの作業が縮んでも、全体の完了日は人向けの作業で決まる。
誰が何をしたかが追えるようにする。 Google や Microsoft の管理基盤が、エージェントごとの権限と監査ログを売りにしているのは、責任を人に残すには、AIの操作が記録されている必要があるからだ。自社でも、人が押した承認と、AIが実行した操作は、後から区別できる形にしておく必要がある。
取り消せない操作の事故は、別の記事に実例をまとめている。リスク管理の記事はこちら。
(出典:自社の運用記録 2026-05〜09/Microsoft「Agent 365 一般提供開始」2026-05-01)
明日からやること
- 現在のRACI表のAIの列を、「判断」と「実行」の2つに分ける
- AIが持っている操作を書き出し、削除・本番・外部送信・費用の4つを実行できない形にする
- 計画中の作業を「AIで終わる」「人にしかできない」に仕分け、後者の完了日から逆算する
- 担当者を決めた場面では、その人が確認することと、してはいけないことを書く
- AIの操作の記録が、後から人が追える形で残っているか確認する
まとめ
RACIのRは、判断と実行に分けて書く。AIに渡すのは判断までで、取り消せない実行は人に残す。
