第1回:流動は本能から生まれる
「猫は光を追う。人は本能で動く。」
猫は光を追う
猫を飼っている人なら、見たことがあるだろう。
レーザーポインターの赤い点を壁に映す。猫は一目散に追いかける。右に動かせば右へ。左に動かせば左へ。
なぜ追いかけるのか。
「面白いから」「遊んでいるから」─ そう見えるかもしれない。でも、猫は「面白いから追いかけよう」と考えていない。
動くものを追う本能があるだけだ。
猫の祖先は狩りをして生きていた。動く獲物を捕らえなければ、生き残れなかった。だから「動くものを追う」という本能が、DNAに刻まれている。
光を追う猫は、考えていない。反応している。
人間も同じ
人間も、思っている以上に「反応」で動いている。
非常ベルが鳴ったら、逃げる
火災報知器が鳴り響く。考えるより先に、出口に向かっている。
「本当に火事か確認しよう」とは思わない。大きな音、危険を知らせる音。それだけで体が動く。
信号が赤なら止まる、青なら進む
横断歩道で立ち止まる。赤信号だから。
「今、車は来ていない」と分かっていても、赤なら止まる。青になったら、確認する前に足が出る。
暗い道より、明るい道を選ぶ
夜道を歩く。二つの道がある。一方は街灯がある。一方は暗い。
特に考えず、明るい方を選ぶ。
「暗い道の方が近道かもしれない」とは考えない。暗い=危険。明るい=安全。その直感で選んでいる。
流動の根っこにあるもの
これらの行動に共通するものは何か。
生存本能
非常ベルで逃げる。暗い道を避ける。どちらも「危険から逃げる」という生存本能だ。
人類は何万年も、危険と隣り合わせで生きてきた。危険を察知して逃げる個体が生き残った。その遺伝子を、私たちは受け継いでいる。
快・不快
うるさい場所から離れる。いい匂いのする方へ向かう。
これは「快に近づき、不快から離れる」という原則だ。
快=生存に有利。不快=生存に不利。だから、快を求め、不快を避けるように脳ができている。
好奇心
人だかりがあると、気になる。動くものに目が行く。
これは「新しい情報を得たい」という好奇心だ。新しい情報は、生存に役立つかもしれない。だから、注意が向く。
流動は「反応」である
ここで大事なことに気づいてほしい。
流動は、意志ではなく反応である。
人は「動こう」と決めて動いているわけではない。
刺激がある。それに反応する。その反応が「動く」という形で現れる。
非常ベル(刺激)→ 恐怖(反応)→ 逃げる(流動)
いい匂い(刺激)→ 食欲(反応)→ 近づく(流動)
人だかり(刺激)→ 興味(反応)→ 見に行く(流動)
この連鎖が、流動の本質だ。
流動は設計できる
ここからが、マーケターにとっての本題だ。
流動が「刺激への反応」だとすれば、刺激をコントロールすれば、流動をコントロールできる。
非常ベルを鳴らせば、人は逃げる。 明るくすれば、人はそちらへ向かう。 いい匂いを漂わせれば、人は近づく。
これは操作ではない。人間の本能に沿った設計だ。
店舗の照明、BGM、香り。イベントの導線、看板の位置、スタッフの配置。
すべては「刺激」であり、流動を生む要素だ。
流動を「見る目」を養う
本連載では、この「流動」を深掘りしていく。
まず身につけてほしいのは、流動を「見る目」だ。
街を歩くとき、人の流れを観察してみてほしい。
- なぜ、この道は人が多いのか
- なぜ、あの店の前で立ち止まる人がいるのか
- なぜ、あの角を曲がる人が多いのか
答えは必ず「刺激」にある。
明るいから。看板が見えるから。匂いがするから。人がいるから。
流動は、偶然ではない。理由がある。
その理由を見つける目を養うことが、流動をデザインする第一歩だ。
まとめ:3つの洞察
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流動は本能から生まれる:猫が光を追うように、人も本能で動いている。生存本能、快・不快、好奇心が流動の根っこ
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流動は反応である:「動こう」と決めているのではない。刺激に対する反応として、流動が生まれる
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刺激をコントロールすれば、流動をコントロールできる:流動は設計できる。それがマーケターの武器になる
次回予告
流動は「刺激 → 反応」で生まれる。
では、その連鎖をもっと細かく分解してみよう。
「うるさい → 不快 → 居たくない → 移動する」
次回は「流動の因数分解」。この連鎖を理解すれば、流動を逆算して設計できるようになる。