#15分

任意

本屋書店マーケティング陳列平積み出版業界本屋大賞

第1回: 本屋という「舞台装置」

本屋の魔法 ─ SNS以前、本はどう売れたのか①


本屋に入る。

入り口を抜けると、まず目に入る本がある。

平積みされた新刊。話題の本。今週のおすすめ。


これは、偶然ではない。


なぜ、その本が「最初に」目に入るのか

本屋には、無数の本がある。

大型書店なら数万冊。

その中で、最初に目に入る本は、ほんの数十冊だ。


誰が、その本を選んでいるのか。

どういう基準で、その場所に置かれているのか。


SNSがなかった時代、本が売れるかどうかは、この「置かれ方」で大きく変わった。


3つの陳列方法

書店には、本の置き方に3つの種類がある。


1. 棚差し(背差し)

背表紙だけが見える、最も一般的な置き方。

本棚にずらりと並んでいる状態。

売上は、月に1冊程度。


2. 面陳列(めんちん)

表紙を見せて、棚に立てかける置き方。

書店員のおすすめ、注目作に使われる。

目線の高さに配置されることが多い。


3. 平積み(平置き)

表紙を上にして、複数冊を積み上げる置き方。

新刊、ベストセラー、話題作向け。

売上は、月に2〜4冊以上。


棚差しと平積みで、売上は2〜4倍違う。

同じ本なのに。


「ゴールデンゾーン」の争奪戦

本屋には「ゴールデンゾーン」と呼ばれる場所がある。


人の目線に入りやすい高さ。

身長の約0.9倍の位置。

160cmの人なら、144cm付近。


この高さに置かれた本は、自然と目に入る。

手に取りやすい。

売れる確率が高い。


だから、この場所を巡って、争奪戦が起きる。

出版社の営業は、この場所に自社の本を置いてもらうために書店を回る。


誰が「置く場所」を決めるのか

ここに、面白い構造がある。


面陳列は、書店の意思で決まる。

書店員が「この本を売りたい」と思えば、面陳列にできる。


平積みは、出版社の営業力やマーケティング予算が影響する。

新刊の初版部数、広告費、著者の知名度。

これらが、平積みの期間や場所に影響する。


つまり、本の運命は「書店」と「出版社」の両方によって決まっていた。


1980年代、リブロ池袋店の革新

1980年代、池袋にあったリブロという書店が、画期的なことをした。

(リブロ池袋店は2015年に閉店)


従来の書店は、ジャンル別に本を並べていた。

文芸、ビジネス、料理、趣味。


リブロ池袋店は、ジャンルの枠を超えた。

ひとつの「テーマ」を決めて、関連する本をまとめて平台に並べた。


たとえば「旅」というテーマなら。

旅行ガイドだけでなく、旅にまつわるエッセイ、写真集、小説、歴史書。

ジャンルを横断して、一箇所に集める。


これが、現在の書店の平台陳列のルーツになったと言われている。


本屋は「出会いを演出する舞台」だった

考えてみると、SNS以前の本屋は、特殊な空間だった。


ネットで検索することはできない。

「この本が欲しい」と思っても、本屋に行かなければ手に入らない。


そして、本屋に行くと、思いがけない本に出会う。

平積みされた本。

書店員が書いたPOP。

「今週のおすすめ」の棚。


本屋は、出会いを演出する「舞台装置」だった。

どの本を、どこに、どう置くか。

それが、読者と本の出会いを左右した。


ここまでの気づき

1. 本屋は「出会いを演出する舞台」だった 陳列の仕方で、本と読者の出会いが決まる。

2. 陳列方法で売上が2〜4倍変わる 棚差し vs 平積み。同じ本でも、置き方で運命が変わる。

3. 書店は「選ばれる場所」を提供していた 無数の本の中から、何を目立たせるか。それが書店の仕事だった。


次回

平積みや面陳列だけではない。

本屋には、もう一つの「魔法」があった。


手書きのPOP。

「この本、泣けます」「店長イチオシ!」

あれは、誰が書いているのか。


次回: 手書きPOPと書店員の「推し」 ─ なぜ書店員の言葉は信頼されたのか