第2回: Excelの関数が正解な場面
人間のMCP化 ─ AIに使われる側にならないために②
データ集計をChatGPTにやらせている人がいる。
売上データをコピペして、「合計を出して」と頼む。
顧客リストを貼り付けて、「重複を削除して」と指示する。
なぜ、Excelの関数を使わないのだろうか。
生成AIは計算が苦手
前回、生成AIは「生成」に特化していると書いた。
計算は、苦手な領域だ。
どれくらい苦手なのか。
実験してみる。
「47,832 × 156 は?」
生成AIに聞くと、答えを返してくれる。
でも、その答えは正しいとは限らない。
Excelなら、=47832*156 と入力するだけで、必ず正しい答えが返る。
7,461,792。
決定論的 vs 確率的
ここで、二つの概念を整理する。
決定論的
- 同じ入力なら、必ず同じ出力
- 計算過程が追える
- 誰がやっても同じ結果
- 例:Excel関数、プログラム、電卓
確率的
- 同じ入力でも、異なる出力の可能性
- 計算過程がブラックボックス
- 毎回結果が変わりうる
- 例:生成AI
生成AIは、確率的だ。
Excelは、決定論的だ。
検証可能性という価値
決定論的ツールには、大きな価値がある。
検証可能性だ。
Excelの関数は、計算過程が見える。
=SUM(A1:A100) と書けば、A1からA100を足していることが分かる。
生成AIは、計算過程が見えない。
「合計は〇〇です」と返ってきても、どう計算したか分からない。
間違っていても、気づけない。
適材適所の判断基準
では、どちらを使えばいいのか。
判断基準は、シンプルだ。
「正解が一つに決まる」タスク → 決定論的ツール(Excel、関数、プログラム)
「正解がない」タスク → 生成AI
データ集計、売上計算、在庫管理。
これらは「正解が一つに決まる」。
Excelの関数が正解だ。
企画書の草案、アイデア出し、文章のブラッシュアップ。
これらは「正解がない」。
生成AIが向いている。
なぜExcelを使わないのか
それでも、生成AIにデータ集計をさせる人がいる。
なぜか。
考えられる理由がある。
1. 関数を知らない SUM、VLOOKUP、IF。関数を学ぶ手間を避けている。
2. AIの方が「新しい」と思っている 最新ツールを使うことが、効率的だと信じている。
3. 万能だと思っている 生成AIは何でもできる、という幻想。
どれも、道具の特性を理解していない。
道具の組み合わせ
生成AIとExcelは、敵対するものではない。
組み合わせれば、強力になる。
例:売上レポート作成
- データ集計 → Excel(正確な計算)
- グラフ作成 → Excel(可視化)
- レポート文章 → 生成AI(要約、コメント生成)
- 体裁調整 → 人間(最終判断)
それぞれの道具を、得意な領域で使う。
これが適材適所だ。
「AIでやる」という自己目的化
気をつけたいことがある。
「AIでやること」が目的になっていないか。
本来の目的は、正確なデータ集計。
手段は、何でもいい。
Excel関数の方が正確なら、Excel関数を使えばいい。
生成AIの方が向いているなら、生成AIを使えばいい。
「最新のAIで」という理由で道具を選ぶのは、本末転倒だ。
ここまでの気づき
1. 生成AIは確率的、Excelは決定論的 同じ入力で同じ出力が保証されるかどうかの違い。
2. 「正解が一つ」なら決定論的ツール 計算、集計、論理処理は、Excelや関数の領域。
3. 道具は組み合わせて使う それぞれの得意領域で使い分けるのが適材適所。
次回
決定論的ツールには、検証可能性がある。
生成AIには、それがない。
「ブラックボックス」という問題。
AIが出した答えを、どうやって検証するのか。
次回: ブラックボックスのリスク ─ 検証できないものに依存する危険