第1回: ターゲットを狙う。キャンペーンを打つ。全部、軍事用語だ
会議室で飛び交う言葉
「ターゲットを絞ろう」
「キャンペーンを打とう」
「戦略を立てよう」
「競合に勝つためには」
「市場を攻略する」
会議室で、当たり前のように使っている言葉だ。
マーケティングの教科書にも書いてある。ビジネス書にも出てくる。上司も部下も、みんな使っている。
でも、これ、全部軍事用語だ。
知っていただろうか?
ターゲットは「標的」だ
ターゲット(target)。
英語で何を意味するか。
射撃訓練の的。狙撃の標的。
軍隊が敵を狙うときに使う言葉である。
「ターゲットを絞る」と言うとき、私たちは無意識に「顧客を標的として狙う」と言っている。
考えたことがあるだろうか。
キャンペーンは「軍事作戦」だ
キャンペーン(campaign)。
春のキャンペーン、夏のキャンペーン。販促活動のことだと思っているだろう。
語源は軍事作戦である。
ナポレオン戦争の時代から使われている。「ロシア遠征キャンペーン」「イタリア・キャンペーン」。
大規模な軍事行動を指す言葉だ。
「キャンペーンを打つ」と言うとき、私たちは無意識に「作戦を展開する」と言っている。
並べてみると、背筋が凍る
マーケティングで日常的に使われる言葉を、軍事用語と並べてみよう。
| マーケティング用語 | 軍事での意味 |
|---|---|
| ターゲット(target) | 標的、狙撃対象 |
| キャンペーン(campaign) | 軍事作戦 |
| 戦略(strategy) | 軍事戦略 |
| 戦術(tactics) | 戦術行動 |
| 市場攻略 | 領土攻略 |
| 市場浸透 | 敵地への侵入 |
| 競合 | 敵軍 |
| シェア獲得 | 領土獲得 |
| 撤退 | 軍の撤退 |
| 前線 | 戦場の最前線 |
10個中10個、全部軍事用語だ。
偶然だろうか?
そんなわけがない。
なぜ、こんなに軍事用語が多いのか
「言葉は言葉だ。深く考えすぎだ」
そう思うかもしれない。
しかし、言葉は思考を規定する。
「ターゲット」と呼ぶ瞬間、顧客は「狙うべき標的」になる。
「攻略」と言う瞬間、市場は「征服すべき領土」になる。
「競合に勝つ」と言う瞬間、ビジネスは「戦争」になる。
私たちは、無意識に「戦争の言葉」で仕事をしている。
そして、無意識に「顧客を敵」として見ている。
言葉が先か、思考が先か
こんな実験がある。
言語学者のベンジャミン・ウォーフは、言語が思考を規定すると主張した。
有名な「サピア=ウォーフの仮説」だ。
例えば、「未来」を表す文法がない言語を使う民族は、未来の計画を立てるのが苦手だという研究がある。
言葉がなければ、思考もない。
逆に言えば、軍事用語を使い続ける限り、私たちの思考は「戦争モード」から抜け出せない。
「顧客を大切にしよう」と言いながら、「ターゲットを攻略しよう」と言っている。
矛盾に気づかないまま。
これは偶然ではない
「たまたま軍事用語が使われただけだ」
そう思うかもしれない。
しかし、これは偶然ではない。意図的に持ち込まれた。
いつ?
第二次世界大戦の後だ。
誰が?
戦場から戻ってきた軍人たちが、ビジネス界に流れ込んだ。
なぜ?
軍で学んだ「作戦計画」「ロジスティクス」「情報分析」が、ビジネスに使えたからだ。
マーケティングは、戦争から生まれた。
次回、その歴史を辿る。
まとめ:3つの洞察
-
マーケティング用語の多くは軍事起源
- ターゲット、キャンペーン、戦略、戦術。全部、軍隊の言葉だ
-
私たちは無意識に「戦争の言葉」で仕事をしている
- 言葉を使うたびに、思考が「戦争モード」になっている
-
言葉は思考を規定する
- 「ターゲット」と呼ぶ限り、顧客は「敵」であり続ける
明日から、会議で使う言葉に注目してみてほしい。
どれだけ「戦争の言葉」が飛び交っているか。
次回予告
では、いつ、誰が、なぜ軍事用語をマーケティングに持ち込んだのか。
第二次世界大戦と、マーケティングの誕生。
その歴史を辿る。