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記録の4段階 ― いま何を任せられるか

AIレディAI活用業務改善データ品質記録データ成熟度L0-L3AI導入の順序

記録の4段階 ― いま何を任せられるか

引き継ぎテストで「回らない」と出たとして、次に知りたいのは いま何なら任せられるのか です。

記録の状態は、大きく4つに分かれます。

  • L0 人が見るための記録 → 任せられることは事実上ない。読み取りの補助まで
  • L1 機械が読める記録 → 集計・要約・検索・下書き = 現状把握
  • L2 経緯が残る記録 → 原因分析・予測・優先順位付け = 判断の支援
  • L3 AIの判断を検証できる記録 → 定型の意思決定と実行 = 業務そのもの

見分け方は7問

自社の段階は、次の7問で判定できます。

L1 の条件(3つとも満たすか)

  • 判断は値になっているか(色・書式に乗っていないか)
  • 空欄の意味は分かれているか
  • 未完了・中止が母集団にあるか

L2 の条件(上に加えて3つ)

  • 直した内容が記録されるか(誰が・何を・なぜ)
  • 決定の理由が残るか
  • 例外が条件として書かれているか

L3 の条件(上に加えて1つ)

  • 状態でなくイベントで持ち、AIの出力への訂正も残るか

上から順に、全部○になったところが自社の段階です。

多くの企業は L0 にいる

システムを導入していても、です。

システムの有無ではなく、その項目が何のために設計されたかで決まるからです。 既存システムの項目は人間が確認するために作られていて、 人間は足りない分を補えるので、それで足りていました。

つまり——

DX でシステムを導入したことと、AI に業務を任せられることは、別の話である。

段階を上げる順序には理由がある

上の段階ほど、必要な合意が重くなります。技術的な難易度ではなく、組織を通す難易度です。

  • Step 1(L0→L1) 集計・書式を直す。予算も権限も要らない。1〜3ヶ月
  • Step 2(L1→L2) 履歴・理由を残す。運用ルールの変更。3〜6ヶ月
  • Step 3(L2→L3) データ構造を変える。6ヶ月〜

よくある失敗は、Step 3 から入って止まることです。 理由は分かりやすくて、Step 3 がいちばん「AI 導入らしく見える」からです。 そして予算・稟議・時間が要り、効果を事前に数字で示せないので、検討だけが続きます。

この順序には、正面からの反論がある

正直に書いておきます。

生成AIの企業導入が損益に届かない原因を「学習の欠落」—— ツールが業務から学ばず記憶もしないこと——に置く見方があります。 これに従えば、訂正が次に反映されるループ(L3)こそが分かれ目であり、 それを最後に回すこの順序は逆になります。

それでも順序は変えません。理由は実測にあります。

記録が薄い状態で「AIが判断を出す → 人が訂正する」を始めると、 提案が的外れになりすぎて訂正そのものが成立しません。筆者の自社実験では初回でそうなりました。 公式記録に人の名前が1つも入っていない状態では、「誰に先に通すべきか」に答えようがなく、 直すべき対象が現れなかったのです。

L3 が分かれ目だという指摘には同意します。 同意しないのは、そこから始められるという前提のほうです。

ただしこれは検証されるべき主張です。 L1 を飛ばして L3 から入り、成功した事例が示されれば、この順序は誤りになります。

既存のフレームワークとの関係

競合しません。測る対象が違います。

  • DAMA-DMBOK / CMMI DMM / DCMM(中国の国家標準) → 組織の能力を測る。経営層向け
  • Data Readiness Levels(Lawrence, 2017)→ データセットが特定の問いに答えられるか
  • L0〜L3業務記録に人の補完が何項目残っているか

とくに Data Readiness Levels は近い立場です。 その Band A は「タスクが定義されて初めて Band A として検討できる」と定義されていて、 用途との関係でデータ品質を見る点は同じです。

新しいのは軸ではなく、目盛りのほうです。 「AI に業務を委任する」という用途に合わせて、既存の軸に現場で判定できる7つの問いを刻み直しました。それ以上ではありません。

持ち帰り

7問を、自分の担当業務でやってみてください。3分で終わります。

L1 の3問で1つでも✕が付いたら、そこが着手点です。 次回は、その✕の中身——人が黙って補っている7つの型——を書きます。


詳しくは:『AIレディ』第5章・第8章

出典

  • Data Readiness Levels:Neil D. Lawrence(arXiv:1705.02245, 2017)
  • fitness for use:Wang & Strong(1996)
  • 構文→意味→実践の3段階:Carlile(2004)
  • DCMM:国家標準 GB/T 36073。2025年版が2026-07-01 施行
  • 生成AI導入と「学習の欠落」:2025年の公開報告。一次資料の配布は現在確認できず、標本設計への批判もあるため対抗仮説として扱う