AI PMの1年史 1:全部AIと組んだ最初の半年
AI PMの1年史 1:全部AIと組んだ最初の半年
この時期に起きたこと(2025年10月〜2026年2月)
この連載でいう「1年」の起点は、2025年10月である。最初の受託案件の開発を、AIと組んで始めた月だ。AIの利用量を数え始めたのは2025年12月27日からで、10月と11月には計測がない。10月と11月の記録は、リポジトリの作成日とコミットの履歴だけで、薄い。
- 利用量:計測を始めた12月の5日間が60,596メッセージ、2026年1月が276,503、2月が607,708だった。2月は、この1年の月別で最も多い。
- 自社サイト:人間1名とAI社員4名の体制で、26ページを約3週間で作った。最初に全タスクを洗い出して「AIに任せられるか」で振り分け、約80%がAIで実行可能と判断した。残る約20%(要件定義、テーブル設計、最終的な品質の判断)は人が受け持った。運用費は月3〜5万円だった。
- 受託案件:コンテンツ配信系のSaaS開発を、PM1人とAIで受けた。2月から3月にかけての約1か月で、209画面、75テーブル、4,000ターン超が積み上がった。1機能あたり2〜3回の修正が入り、1日の稼働は約19時間、休日はなかった。
209画面は本当の成果だが、その裏に「1日19時間・休日なし」がある。これは経営者だから成立した働き方で、他人に求めるものではない。AI開発は楽になるのではなく、1人で回せる量が増える。総労働量は減らなかった。AIが速く実装を上げてくるので、レビューと判断の往復が途切れなくなったためだ。
(出典:自社のAI利用統計 2025-12-27〜2026-02-28(3台合算)/自社ブログ記事「PMBOK-AI導入事例」「AI社員4名の実稼働レポート」2026-02、「SaaS開発をPM1人×AIで乗り切る」2026-03-24)
事故:テストは通るのに、仕様と違う
この半年でいちばん大きな学びは、事故から来た。導入の初期、私は「AIは優秀だから、ざっくり指示すれば大丈夫だろう」と考えていた。結果は、一見動くが、意図と違う実装の量産だった。
- 検索フォームを頼んだとき、絞り込みの機能が検索画面とは別の画面に分離されていた
- 商品一覧のページ送りを頼んだとき、全件を一度に取得して、画面側で分割表示する実装になっていた
どちらも、テストは通った。通ったテストは、AIがテストを書く時点で持っていた理解を確かめたにすぎない。その理解は、指示が粗いほど、AIが勝手に補う。出力が速いぶん、問題は大量に溜まってから発覚した。
書いた文章にも、同じことが起きた。AIが書いた記事に「導入企業の90%が生産性2倍」という数字が入っていた。出典を探したが、どこにも根拠がなかった。別の記事では、実在しないサービス名が引かれていた。
もう1つ、身にしみたことがある。人間のエンジニアなら、「ユーザー一覧画面をお願いします」と頼めば、並べ替えやページ送りを当然入れてくれる。AIは本当にただの一覧を出してくる。並べ替え条件も、絞り込みの項目も、権限による出し分けも、データが空のときの表示も、こちらが言葉にしなければ付かない。言語化の力が、そのまま品質の上限になった。
(出典:自社ブログ記事「AI活用の失敗と教訓」2026-02-21)
この時期に残ったルール
| 起きたこと | 残ったルール | 守らせ方 |
|---|---|---|
| ざっくり指示で、仕様と違う実装が量産された | 要件・テーブル設計・設計書の方針は人が決める。AIには設計書を渡して実装させる | 実装の依頼は、Issue に手順を書いてから |
| 出典のない数字がAIの文章に混ざった | AIが書いた数字は、出典を確かめるまで公開しない | 人の目 |
| テストが通ることと、意図どおりであることは別だった | コードから仕様書を逆に起こし、設計書と照合する | 手順 |
| 会話が長くなると前提が抜ける | 1タスク1プロンプト。記録は人の側に置く | Issue と設計書 |
| 一度に全部を任せると破綻する | 情報収集、下書き、コーディング、テストの順に、段階的に広げる | 導入の順序 |
設計書に基づいて指示するようにすると、手戻りは5分の1以下になった。ただし、これは手戻りの件数を数えて比べたものではなく、体感に近い数字である。
この表の右端を見ると、半数は「人の目」や「手順」に頼っている。守らせる力が弱い。この弱さは、半年後に別の形で響く。
明日からやること
- AIに頼む作業のうち、要件・設計・品質の最終判断を人が持つ範囲を書き出す
- 実装を頼む前に、設計書か手順を書いた課題を1つ用意する
- AIが書いた数字と固有名詞は、出典を確かめるまで公開しない
- 「テストが通った」を完了と見なす前に、成果物そのものを動かして確かめる
- AIを使った作業の総労働時間を、人の分も含めて測る
まとめ
任せる量を増やしても、指示が粗ければ、テストを通る間違いが量産される。
