第3回:流れを生む刺激、止める刺激
「なぜ人はそこを歩くのか。答えは『刺激』にある。」
焼き鳥屋の煙
夕方の商店街。
焼き鳥屋から煙が流れてくる。炭火で焼ける匂い。
あの匂いを嗅いで、素通りできる人がいるだろうか。
店主は知っている。煙を外に出すことが、最高の広告だと。
隣の店はガラガラ。同じ通りなのに、人の集まり方が違う。
違いは「刺激」にある。
流れを生む刺激
まず、人を動かす刺激を見ていこう。
光
人は明るい方へ向かう。これは本能だ。
暗闇は危険を意味する。明るさは安全を意味する。だから、明るい場所に引き寄せられる。
- 店舗の照明を明るくする
- 入口にスポットライトを当てる
- 暗い通りに街灯を置く
光は最も基本的な「引き寄せる刺激」だ。
音
音がする方を見る。これも本能。
音は情報。何かが起きている合図。だから注意が向く。
- BGMで雰囲気を作る
- 呼び込みの声
- 調理の音(ジュージューという音)
- イベントの音楽
ただし、音は諸刃の剣だ。心地よい音は引き寄せるが、うるさい音は遠ざける。
匂い
匂いは強力だ。理性を通さず、直接感情に作用する。
焼きたてパンの匂い。コーヒーの香り。うなぎを焼く煙。
- 店頭で調理する(匂いを外に出す)
- アロマを焚く
- 換気扇の向きを工夫する
「匂いで集客する」というのは、昔から使われてきた手法だ。
動き
動くものに目が行く。これも狩猟時代の名残。
動くもの=獲物か、敵か。どちらにしても、注意を払う必要がある。
- デジタルサイネージ(動く広告)
- 実演販売
- 風で揺れるのぼり
- スタッフの動き
静止したものより、動くものの方が目を引く。
人だかり
人がいると、人が集まる。
「あそこに人がいる → 何かあるのかも → 見に行こう」
これは社会的証明の一種だ。他人の行動を、自分の行動の参考にする。
- 行列を見せる(隠さない)
- スタッフを店頭に立たせる
- サクラとまでは言わないが、賑わいを演出する
逆に、誰もいない店は入りづらい。「人気がないのかな」と思われる。
温度
暑ければ涼しい場所へ。寒ければ暖かい場所へ。
- 夏場、冷房の効いた店内から冷気を漏らす
- 冬場、暖かそうな雰囲気を見せる
温度は直接的に快・不快に影響する。
流れを止める刺激
次に、人を止める・遠ざける刺激を見ていこう。
暗さ
暗い場所は避けられる。
- 照明が暗い店
- 入口が見えない
- 奥が見通せない
「中が見えない」は、大きな心理的障壁になる。
騒音
心地よくない音は人を遠ざける。
- 工事の音
- 大声で話す客
- 不快なBGM(音量、ジャンル)
「静かすぎる」も問題だ。シーンとした店は、入ると目立つ気がして入りづらい。
物理的障壁
段差、扉、狭い通路。
- 階段を上らないと入れない
- 重い扉を押さないと入れない
- 通路が狭くて入りづらい
物理的な「面倒さ」は、流動を止める。
心理的障壁
物理的には入れるのに、入りづらい。
- 高級そうな雰囲気(場違いに感じる)
- 店員と目が合いそう
- 中が見えない(何があるか分からない)
- 常連ばかりに見える
「入りづらさ」は、物理ではなく心理の問題であることが多い。
混雑
人だかりは引き寄せるが、混雑は遠ざける。
「ちょっと見てみよう」と「並ぶのは嫌だ」は違う。
適度な賑わいは引き寄せ、過度な混雑は遠ざける。
「止める」の活用
流れを「止める」ことは、悪いことではない。
むしろ、意図的に「止める」設計が必要な場面がある。
滞留させることで購買につなげる
通り過ぎるだけでは、買ってもらえない。
立ち止まってもらう。手に取ってもらう。そのための「止める刺激」が必要だ。
- 試食コーナー(足を止める)
- 体験スペース(滞在させる)
- 休憩できる場所(回遊の途中で止める)
流れを止めるポイントを作る
店内の動線設計では、「止まってほしい場所」がある。
そこには、止める刺激を配置する。
- 目玉商品を置く
- ディスプレイを工夫する
- 照明を変える
「流す」と「止める」を意図的に配置する。それが流動設計だ。
刺激の強さとバランス
刺激は、強ければいいわけではない。
強すぎる光は眩しい
明るさを求めて近づいても、眩しすぎると不快になる。
強すぎる音はうるさい
注意を引くための音も、大きすぎると逃げられる。
強すぎる匂いはくどい
いい匂いも、強すぎると「くさい」になる。
刺激のバランスを取る
自然な流れを作る刺激は、「気づかないくらい自然」なことが多い。
「なんとなく、こっちに行きたくなる」
それが理想的な刺激設計だ。
刺激のカタログ
ここまでを整理しよう。
引き寄せる刺激
- 光(明るさ)
- 音(心地よいBGM、調理音)
- 匂い(食欲を刺激、心地よい香り)
- 動き(デジタルサイネージ、実演)
- 人(賑わい、スタッフの存在)
- 温度(快適さ)
遠ざける刺激
- 暗さ
- 騒音
- 不快な匂い
- 物理的障壁(段差、扉、狭さ)
- 心理的障壁(高級感、閉鎖感)
- 過度な混雑
止める刺激
- 興味を引くディスプレイ
- 試食・体験
- 休憩スペース
- 目玉商品
これらを組み合わせて、流動をデザインする。
まとめ:3つの洞察
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流れを生む刺激がある:光、音、匂い、動き、人だかり。これらが人を引き寄せる
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流れを止める刺激がある:暗さ、騒音、障壁、混雑。これらが人を遠ざける
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「止める」も設計の一部:滞留させることで購買につなげる。流すだけが正解ではない
次回予告
刺激のカタログが揃った。
次は、これらを使って「流動をデザインする」方法を見ていく。
IKEAはなぜ一方通行なのか。コンビニはなぜあの配置なのか。
実例から、流動設計の原則を学ぼう。