#46分

流動をデザインする

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第4回:流動をデザインする

「IKEAはなぜ一方通行なのか」


迷路のような店内

IKEAに行ったことがあるだろうか。

広大な店内。順路に沿って進む。ショールームを抜け、マーケットホールを抜け、レジへたどり着く。

途中で「あ、さっきの場所に戻りたい」と思っても、簡単には戻れない。

なぜ、こんな設計なのか。

不便だから? 違う。

意図的に「流す」設計だからだ。


「流す」設計

IKEAの一方通行には、明確な意図がある。

すべての商品を見せる

一方通行なら、客は店内のすべてのエリアを通過する。

「リビングだけ見て帰ろう」と思っても、寝室、キッチン、バスルームを通る。

予定していなかった商品と「出会う」機会が増える。

滞在時間を延ばす

長く滞在するほど、購買確率は上がる。

迷路のような動線は、滞在時間を自然と延ばす。

「ついで買い」を促す

順路の途中に、小物コーナーがある。

「あ、これ安い」「これも必要かも」

ついで買いが積み重なる。

これが、IKEAの流動設計だ。


「流す」設計の原則

IKEAに限らず、「流す」設計には共通の原則がある。

一方通行にする

入口と出口を分ける。逆流させない。

これにより、すべての客が同じルートを通る。見せたいものを、確実に見せられる。

奥に目玉を置く

スーパーの牛乳売り場は、なぜ奥にあるのか。

牛乳を買いに来た客を、店の奥まで歩かせるためだ。その途中で、他の商品が目に入る。

「目的のものは奥」。これが流す設計の基本だ。

順路を作る

美術館、博物館、展示会。

順路があると、人は自然とそれに従う。「どこに行けばいいか」を考えなくていいからだ。

順路を作ることで、流れをコントロールできる。


「溜める」設計

一方で、「溜める」設計もある。

流すだけでは、通り過ぎて終わりだ。立ち止まってもらわないと、購買につながらない。

滞留スペースを作る

ショッピングモールのフードコート。

休憩できる場所があると、長く滞在する。長く滞在すると、もう一周しようかな、となる。

立ち止まらせる仕掛け

試食コーナー、実演販売、体験スペース。

これらは「立ち止まる理由」を提供している。

回遊させる設計

一方通行ではなく、ぐるぐる回れる設計もある。

ショッピングモールは、中央に吹き抜けがあり、周囲に店舗が並ぶ。どこからでも回れる。

「流す」と「溜める」を組み合わせて、回遊を促す。


コンビニの流動設計

コンビニは、小さな空間で流動設計の教科書だ。

ドリンクは奥

冷蔵庫は店の奥にある。

飲み物を買いに来た客は、店の奥まで歩く。その途中で、お菓子やおにぎりが目に入る。

これはスーパーの「牛乳奥」と同じ原理だ。

レジ前は衝動買いゾーン

レジの前に、何が置いてあるか。

ガム、チョコ、電池、リップクリーム。

レジに並んでいる間、目に入る。「あ、これも」と手に取る。

待ち時間という「滞留」を、衝動買いに変えている。

雑誌コーナーの位置

雑誌は窓際に置かれていることが多い。

雑誌を立ち読みしている人がいると、外から「人がいる店」に見える。

滞留させつつ、賑わいを外に見せる。一石二鳥の設計だ。


イベント・展示会の流動設計

イベントや展示会では、流動設計が成果を直接左右する。

ブース配置の考え方

入口から遠いブースは、人が来ない。

でも、入口のすぐ横も難しい。人は入口付近を素通りする傾向がある(「入口効果」)。

少し奥に入った、目に入りやすい場所。それがベストポジションだ。

ボトルネックを作らない

人が詰まる場所を作らない。

詰まると、後ろの人が「混んでるからいいや」と諦める。

通路幅、ブース間隔、人の滞留を計算する。

人の流れを読む

会場の入口、出口、メインステージ、トイレ。

人は必ずそこを通る。その動線上にブースを置く。

流れを「読む」ことが、流れを「活かす」ことにつながる。


流動設計の原則

ここまでを原則としてまとめよう。

原則1:刺激を配置して流れを作る

光、音、匂い、人。これらを意図的に配置して、流れを誘導する。

原則2:目的地を奥に置く

客が求めるものを奥に置くことで、途中の商品と接触させる。

原則3:「流す」と「溜める」を使い分ける

流すだけでは通り過ぎる。溜めるだけでは回らない。両方を組み合わせる。

原則4:障壁を取り除く

暗さ、段差、心理的な入りづらさ。これらは流れを止める。意識して取り除く。

原則5:人の流れを読んでから設計する

既存の流れを無視した設計は機能しない。まず流れを観察し、それを活かす設計をする。


因数分解に戻る

流動設計の根底には、第2回で学んだ因数分解がある。

刺激 → 感情 → 欲求 → 行動

IKEAの一方通行は、「次の部屋が気になる」という刺激を与え続けている。

コンビニのレジ前は、「待ち時間の暇」という状態で「目に入る商品」という刺激を与えている。

すべては、刺激の配置と、それが生む感情の連鎖だ。


まとめ:3つの洞察

  1. 「流す」設計:一方通行、奥に目玉、順路。すべての商品と接触させる設計

  2. 「溜める」設計:滞留スペース、立ち止まる仕掛け、回遊。流すだけでは購買につながらない

  3. 流動設計 = 刺激の配置:どこに、どんな刺激を置くか。それが流れを決める


次回予告

流動設計の原則が分かった。

最終回では、これをマーケティングにどう応用するかを見ていく。

立地選び、出店戦略、サンプリング。

人の流れを売上につなげる、具体的な方法を学ぼう。