第4回: 顧客は攻略する相手ではなかった
炎上する企業たち
2010年代以降、企業の炎上が増えた。
SNSで広告を出すと、批判が殺到する。
キャンペーンを打つと、「押し付けがましい」と言われる。
「ターゲットを狙って」仕掛けた施策が、裏目に出る。
軍事的マーケティングが、通用しなくなったのである。
なぜだろうか。
構造が変わった
かつてのマーケティングは、こうだった。
企業 →(一方的に)→ 消費者
テレビCMを打つ。新聞広告を出す。チラシを配る。
消費者は、受け取るだけだった。
反論の手段がなかった。気に入らなくても、黙って見ているしかなかった。
企業が撃ち、消費者は撃たれる。
これが「ターゲット」の前提だったのである。
SNSが全てを変えた
しかし、SNSが登場した。
今はこうだ。
企業 ⇄ 消費者 ⇄ 消費者
消費者は、発信者になった。
気に入らない広告には、コメントで批判できる。
不満があれば、Twitterで拡散できる。
消費者は「標的」ではなくなった。反撃する存在になった。
「攻略」しようとすると、炎上する
具体例を見てみよう。
ある企業が、ターゲットを絞った広告を打った。
「30代女性向け」「ダイエット訴求」。
かつてなら、これで良かった。ターゲットに刺さる広告。効率的である。
しかし、SNS時代は違う。
「女性はダイエットしなきゃいけないの?」
「押し付けがましい」
「ステレオタイプだ」
批判が拡散し、炎上した。
「攻略」しようとしたら、反撃されたのである。
一方通行の終わり
問題の本質はここだ。
軍事モデルは、一方通行を前提としている。
「ターゲットを狙う」。これは、相手が動かないことを前提としている。
射撃訓練の的は、動かない。反撃もしない。
しかし、顧客は動く。反撃する。逃げる。拡散する。
顧客を「標的」として扱うと、顧客は怒る。
当然である。誰だって「狙われたい」とは思わない。
勝っている企業は何をしているか
では、今うまくいっている企業は何をしているか。
顧客を「味方」にしている。
具体的には、こうだ。
- ファンコミュニティを作る:顧客同士がつながる場を提供する
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)を促す:顧客に語ってもらう
- 口コミを育てる:広告ではなく、顧客の声で広める
- 共創する:商品開発に顧客を巻き込む
「攻略」ではなく、「協力」である。
Appleは顧客を攻略していない
Appleを考えてみよう。
Appleは、押し売り型の広告をしていない。
安売りキャンペーンで「今だけお得」と迫っていない。
でも、熱狂的なファンがいる。
なぜか。
Appleは顧客を「攻略対象」ではなく、「仲間」として扱っているからである。
「Think Different」。
「普通じゃない人たちへ」。
あなたは私たちの仲間だ、というメッセージ。
攻略ではない。招待である。
言葉が変わり始めている
面白いことに、言葉も変わり始めている。
| 軍事用語 | 新しい言葉 |
|---|---|
| ターゲット | ペルソナ、コミュニティ |
| キャンペーン | エンゲージメント |
| 攻略 | 共創、対話 |
| 獲得 | つながる |
| 市場占有 | 関係構築 |
完全に置き換わったわけではない。
まだ「ターゲット」は使われている。「キャンペーン」も健在である。
しかし、変化の兆しはある。
「敵」から「味方」へ
考えてみると、不思議なことに気づく。
顧客は、本当に敵だろうか。
顧客は、本当に攻略すべき相手だろうか。
違う。顧客は、味方にできる存在である。
顧客が商品を好きになれば、勝手に広めてくれる。
顧客がファンになれば、リピートしてくれる。
顧客が仲間になれば、一緒に商品を育ててくれる。
「攻略」より、「協力」の方が、結果的にうまくいく。
戦争は終わりつつある
70年間続いた「マーケティング戦争」。
顧客を「敵」とみなし、「攻略」してきた70年。
その戦争は、終わりつつある。
一方通行が終わり、双方向になった。
「撃つ側」と「撃たれる側」の区別がなくなった。
顧客は標的ではなく、発信者であり、仲間であり、共創者になった。
まとめ:3つの洞察
-
一方通行の時代は終わった
- SNSによって、顧客は発信者になった。反撃できるようになった
-
顧客は「攻略」されると反撃する時代になった
- 炎上、不買、悪評拡散。軍事モデルは通用しない
-
勝っている企業は顧客を「味方」にしている
- 攻略ではなく、協力。共創。対話。招待
顧客は敵ではなかった。
最初から、味方にできる存在だった。
次回予告
では、戦争が終わったあと、マーケティングはどうなるのか。
「ターゲット」に代わる言葉は何か。
「攻略」ではないアプローチは何か。
最終回。新しいマーケティングを考える。