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仕組みで利益を上げるはずが、なぜ崩壊するのか|「運用は未定」が招くシステム導入の闇

Summary

仕組みで利益を上げるためのシステム導入。だが「運用が変わるかもしれない」「担当や上長で変わるかも」「まだ未定」という発言が繰り返されるとき、そのプロジェクトは崩壊に向かっている。仕組みの目的は属人化の排除であり、誰がやっても同じ結果を出すことだ。運用を人に合わせた瞬間、そして部門・担当ごとに運用が分岐した瞬間、仕組みは属人化に戻る。複数案件での実体験をもとに、仕組みが崩壊する3つのパターンと、リリース後の定着段階で運用が分岐する5つの落とし穴、そして「ITコーチング」という処方箋を解説する。

「運用は未定です」——この一言を聞いた瞬間、私はそのプロジェクトの行方が見える。

要件がぶれる。手戻りが連鎖する。納期が延びる。最終的に「とりあえず動くもの」が納品されて、誰も使わずに終わる。

システム導入で利益を上げるはずが、なぜこうなるのか。原因は技術でも予算でもない。「決めない」という経営判断の失敗だ。

この記事では、複数プロジェクトの実体験をもとに、仕組みが崩壊する3つのパターン、リリース後の定着段階で運用が分岐する5つの落とし穴、そしてそれを防ぐ「ITコーチング」という処方箋を解説する。

仕組みで利益を上げるとはどういうことか

「仕組み化」とは何か。一言でいえば、属人化の排除だ。

誰がやっても同じ結果が出る。ベテランがいなくても業務が回る。新人でも3日で戦力になれる。この状態を作ることが、仕組み化の本質だ。

仕組みが機能すれば、利益は安定する。売上の波を作るのは人の能力のばらつきだ。属人化している限り、優秀な担当者が辞めた瞬間に売上は落ちる。システムが仕組みを「固める」ことで、属人化に依存しない利益構造になる。

しかし現実はどうか。中小企業の74%が「業務が特定の人に依存している」と認識している(SMB調査)。認識しているのに、解消できていない。それはなぜか。仕組み化を目的として導入したシステムが、結局「デジタル化した属人化」に終わっているからだ。

システムは仕組みを強制するツールだ。だが「既存の混乱をデジタル化するだけ」では、混乱がシステムの中に移植されるだけだ。仕組みを先に決め、システムでそれを固める。この順番が、全ての出発点だ。

「運用は未定」から仕組み崩壊までの因果フロー

ずんべぇ
ずんべぇ
システムさえ入れれば、属人化って解消できますよね?
あざらす
あざらす
逆です。運用を決めないまま入れると、今の混乱がそのままシステムに移るだけです。
ずんべぇ
ずんべぇ
えっ、システムが整理してくれるんじゃ…
あざらす
あざらす
システムは仕組みを強制する道具。整理してくれる頭脳ではないんです。
ずんべぇ
ずんべぇ
じゃあ順番が大事ってこと…?
あざらす
あざらす
そう。運用を先に決めて、システムは最後に固める。これが唯一の順番です。

「決めない」が最大のコストになる

プロジェクトにおいて最大のコストは何か。私の答えは「意思決定しないこと」だ。

「運用はまだ未定」「要件が変わるかもしれない」——この言葉が出るたびに、要件がぶれ、設計が崩れ、開発工数が積み上がる。見えないコストが、静かに膨らみ続ける。

実際に経験した案件がある。あるSaaS開発プロジェクトで、私はRFPに2025年3月に回答した。しかし発注が来たのは2026年2月。約1年待った。 その間、設計は変わり続けた。発注が来た後も設計は確定せず、納期は5月に設定されている。着手時点で、設計はまだ固まっていない。

この間に起きたことは何か。要件定義の手戻りが3回。会議のたびに「やっぱりこうしたい」が出て、その都度設計をやり直した。発注から着手まで短期間でも、設計未確定のまま進めばコストはさらに膨らむ。

世界規模でも同じ構造が見える。グローバルIT支出は2005年の1.7兆ドルから2024年には5.6兆ドルに拡大した(IEEE Spectrum)。しかしプロジェクト成功率は改善していない。Standish GroupはITプロジェクトの83.9%が一部〜完全失敗と報告している。投資額が増えても、成功しない。原因は予算や技術力の不足ではない。意思決定の構造の問題だ。

デジタル庁のガバナンスマネージャー・長谷川和人氏は、失敗するプロジェクトの典型をこう指摘する(ビジネス+IT)。内部では問題が認識されていても、外部報告では「順調です」と伝えられ、経営層は状況のまずさを把握しないまま進む。そして問題を認識しながらも「誰も責任を取らない放置状態」になり、いったん動き出したプロジェクトは止まらない推進力で進み続ける。

「順調です」という報告ほど危ういものはない。決めるべきことが決まっていないのに、誰もそれを問題として上げない。これが「決めない」コストの正体だ。

決めないことのコストは見えない。しかしそれは確実に、プロジェクトを殺す。

仕組みが崩壊する3つのパターン

仕組みが崩壊する3つのパターン:目的未理解・運用の属人化・決裁者不在

パターン1:目的が浸透していない

「なぜこのシステムを入れるのか」を理解せずに実装が始まる。

「運用が変わるかもしれない」という発言が象徴的だ。仕組み化の目的が標準化の実現であるなら、運用を変える余地は最初から存在しない。この発言が出る時点で、そのプロジェクトの参加者は仕組み化の目的を理解していない。

経産省が推進するモデル契約書の普及率はわずか4割にとどまる。要件定義の重要性を啓発しても、現場では「形式的な承認」が続いている。なぜか。目的を理解していないから、何を決めるべきかがわからないのだ。

パターン2:運用を人に合わせてしまう

現場に行けで書いた物流倉庫のWMS開発の話に戻る。

管理部署が半年かけて設計したフローには、同じ商品に対して10回以上のピッキング作業が組み込まれていた。管理者の「完璧な把握」という要望に、運用を合わせた結果だ。私が倉庫の現場に行き、作業者と話してわかったのは、問題は現場の作業ではなく「管理側が状況を把握できないこと」だったということだ。

現場の動作を観察せずに机上で設計した結果、1人の担当者の思考が運用に埋め込まれた。 これが「運用の属人化」だ。その後、フロー全体をやり直し、管理部署の設計の1/3以下のシンプルな設計に落とし込んだ。

仕組み化とは「人の思考をシステムに移す」ことではなく、「誰もが同じ動作をできる最小フローを設計する」ことだ。人に合わせた瞬間、仕組みは人に依存し始める。

パターン3:決裁者が決めない

別の物流DX案件での経験だ。

システムの改修作業中、担当開発者が2/5以前の旧コードファイルを使用していた。Gitによるバージョン管理がなく、「最新のファイル」が何かを誰も把握していなかった。チェックリストはあったが、リグレッション(既存機能への影響確認)の項目がなかった。

確定プロセスに最終責任を持つ人間が不在だった。 これが根本原因だ。

要件定義の最終責任は発注者側にある。現行踏襲という呪いでも書いたが、要件定義をベンダーに丸投げする企業が多い。しかし、自社の業務を自社で定義できなければ、決裁者不在のプロジェクトが量産される。

リリースして終わり、ではない — 定着段階で運用が分岐する

定着段階で運用が分岐する5つの落とし穴:運用ルール曖昧・オンボード不足・定着指標なし・問い合わせ属人化・改善ループ停止

3つのパターンは、どれも「作る前」の失敗だ。だが仕組みの崩壊は、リリース後にも起きる。むしろ、ここからが本番だ。

IT専門メディアは2026年を「運用崩壊」が到来する年だと警告している。人手不足とシステムの複雑化で、IT運用スキル不足が深刻化しているからだ(TechTargetジャパン)。だが運用が崩壊する本当の理由は、スキル不足の手前にある。「運用を決め切らないまま動かしている」ことだ。

プロジェクトの成否はリリースで決まらない。「定着」で決まる。ところが定着フェーズの設計は見落とされがちで、結果として「使われないシステム」「属人的な運用」に逆戻りする。

最も多いのが「運用ルールの分岐」だ。同じシステムを導入しても、部門ごと、担当ごと、上長ごとに独自の運用が生まれる。「うちの課はこう入力する」「あの担当はこの手順でやっている」——こうしてデータの粒度も形式も揃わなくなる(シースリーインデックス)。揃わないデータは集計できない。集計できなければ効果測定もできない。経営層に「投資対効果は?」と聞かれて答えられない、という状態がこうして生まれる。

「担当や上長レベルで運用が変わるかもしれない」——この発言の危うさはここにある。運用が人によって変わることを許した瞬間、仕組みは「誰がやっても同じ結果」という前提を失う。標準化したはずのシステムの中で、属人化が再生産される。これが「デジタル化した属人化」だ。

定着段階で仕組みを崩す典型は5つある(シースリーインデックス)。

  • 運用ルールが曖昧 — 部門ごとに独自運用が生まれ、データが揃わない
  • オンボーディング不足 — 全社説明会1回で終わり、最初の1週間で現場が使うのをやめる
  • 定着指標がない — 効果を測る数字を持たないから、改善も止まる
  • 問い合わせの属人化 — 特定の情シス担当に質問が集中し、その人依存になる
  • 改善ループの停止 — リリース後は予算がつかず、改修されないまま放置される

どれも技術の問題ではない。「運用を決め切り、決めた運用を全員に守らせる」という組織の問題だ。

仕組みに人を合わせろ

「仕組みに人を合わせる」vs「人に仕組みを合わせる」の結果の違い

これがこの記事の核心だ。

仕組みに人を合わせる。 人に仕組みを合わせるのではない。

「この部署はこのやり方が好き」「あの担当者にはこの手順が向いている」——こうした理由でシステムをカスタマイズするたびに、仕組みは属人化に逆戻りする。個人の好みを反映したシステムは、個人が去った瞬間に崩壊する。

ずんべぇ
ずんべぇ
部署ごとに使いやすく運用を変えるの、現場に優しくていいですよね?
あざらす
あざらす
それがいちばん危ない発想です。運用が分かれた瞬間、データが揃わなくなります。
ずんべぇ
ずんべぇ
データが揃わないと、何が困るんですか?
あざらす
あざらす
集計できない。効果も測れない。投資対効果を聞かれても答えられなくなります。
ずんべぇ
ずんべぇ
こわ…。標準化したのに属人化に戻ってる…
あざらす
あざらす
そう。「うちの課はこう」を許した時点で、仕組みはただのデジタル属人化です。

売上が先、システムは後で紹介したマレーシアのボクシングジムの例が、この原則を逆から証明している。クライアントは「まずシステムを作りたい」と言った。私は「売上が先、システムは後」と提案した。

結果、オープン初日から30名以上の会員を獲得し、現在は100名超に成長した。仕組みを正しい順序で構築したから成功した。 システムを先に作っていたら、何を標準化すべきかが見えていない段階で、特定の人間の思考をシステムに埋め込んでいただろう。

仕組みの正しい順番はこうだ。

  1. ①目的を決める — この仕組みで何を標準化し、何を排除するか
  2. ②運用を決める — 誰が何をどう回すか、例外なし
  3. ③システムで固める — 決まった運用をコードで実装する

③から始めると、①と②が未確定のまま実装が進む。「運用は未定です」はその証拠だ。

経営者こそ「エンジニアリング思考」を — ITコーチングという処方箋

ITコーチングによる組織変革のプロセス

「決めない組織」は、技術の問題ではない。組織の問題だ。

どんな優秀なエンジニアを連れてきても、決めない組織ではシステムは崩壊する。処方箋は技術ソリューションではなく、「決められる組織」を作ることだ。これが、私が「ITコーチング」と呼ぶ伴走支援の本質だ。

ITコーチングは4フェーズで構成される。

フェーズ内容
Phase 1: 目的の言語化なぜこの仕組みが必要か。何を標準化するのかを言語化する
Phase 2: 運用の決定誰が何をどう回すか。例外なしで決定する
Phase 3: システム実装決まった仕組みをコードで固める
Phase 4: 定着支援仕組みに人が慣れるまで伴走する

Phase 1と2を省略して Phase 3 から始めるから、プロジェクトは崩壊する。

そして見落とされがちなのが Phase 4 だ。定着支援で最も重要なのは、定着を数字で測ることだ。 指標を持たない仕組みは、崩れても気づけない。たとえばこうした指標を置く(シースリーインデックス)。

  • 利用率 80%以上
  • 主要業務の処理時間 50〜70%削減
  • 問い合わせ件数 30%削減
  • 現場からの改善提案 月5件以上

「定着指標なし」は、運用が分岐していく5つの落とし穴の1つだった。測れないものは、定着しない。逆に言えば、数字で運用のブレを検知できる組織は、仕組みを守り続けられる。

2026年から「デジタル化・AI導入補助金」では伴走支援も補助対象になった。システム導入コストだけでなく、組織変革の伴走支援に対して補助が受けられる。これは「技術を入れるだけでは不十分」という政策上の認識の反映だ。

Panda OfficeのFDE(Forward Deployed Engineer)型支援は、このフレームワークを現場で実践するものだ。現場に入り込み、決めるべきことを決め、仕組みを実装し、定着するまで伴走する。PMBOK-AIフレームワークは、このプロセスをPMの視点から体系化したものだ。

まとめ:決めることは、責任だ

この記事の要点を3行にまとめる。

  1. 仕組み化の目的は属人化の排除。 誰がやっても同じ結果が出る状態を作ることだ
  2. 「運用は未定」は、目的が未定であることと同義。 決めない組織はシステムで解決できない
  3. 仕組みに人を合わせる。 人に仕組みを合わせた瞬間、属人化が再生産される

「運用は未定です」——これは技術的な問題ではない。責任の放棄だ。 「担当や上長で運用が変わるかもしれない」も同じだ。それは「誰も運用を決めていない」という告白にほかならない。運用が人によって変わる仕組みは、もう仕組みではない。

要件定義の責任は発注者にある。運用を決める責任は経営者にある。仕組みに人を合わせる決断をする責任も、経営者にある。

システムは、決めた組織だけが活用できる道具だ。仕組みに人を合わせる。これがシステム導入成功の唯一の原則だ。


属人化と現行踏襲の構造については現行踏襲という呪いで詳しく解説しています。現場観察の重要性は現場に行け、仕組みより売上を先に作る考え方は売上が先、システムは後をご覧ください。

AI失敗事例の教訓についてはAI活用の失敗と教訓も参考にどうぞ。

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