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人間API|あなたの仕事の半分は「データの引っ越し」かもしれない

Summary

システムAからエクスポートし、Excelで加工し、システムBにインポートする。この「人間API」を全員が当たり前にやっている。通信インフラ20年の現場で経験した3パターンの実例と、時間・ミス・属人化という見えないコスト、そしてMCPのような新しい連携手段の登場で変わり始めた流れを書く。

「今日、CSVを何回エクスポートしましたか?」

この質問に即答できる人は少ない。なぜなら、あまりに日常すぎて数えていないからだ。 システムAからデータを抜き出し、Excelで加工して、システムBに貼り付ける。この作業を1日に何度も繰り返している人が、日本中のオフィスにいる。

私はこれを**「人間API」**と呼んでいる。

システムAとシステムBの間に人間が立ち、手作業でデータを中継する人間APIの構造図

人間APIとは何か

APIとは、システム同士がデータをやり取りするための接続口だ。本来はシステムが自動でやる仕事を、人間が手作業で代行している状態——それが人間APIだ。

具体的にはこういうことだ。

  • システムAからCSVをエクスポートする
  • Excelで列を並び替え、不要な行を削除する
  • システムBのフォーマットに合わせて加工する
  • システムBにインポートする

これはデータの引っ越しだ。 そして、引っ越し屋はあなただ。

誰かに頼まれたわけではない。マニュアルに書いてあるわけでもない。ただ、「前任者がそうやっていたから」。気づけば、あなたの仕事の半分がデータの引っ越しになっている。

あるあるパターン3選

1. Excel→基幹システム転記

部署Aが作成した工程表(Excel)を受け取り、自部署の基幹システムに手入力する。項目は50以上。名前、型番、工期、担当者名……画面とExcelを交互に見比べながら、1つずつ打ち込む。3時間もやると目がチカチカしてくる。毎週更新。しかも1つでも入力ミスがあれば差し戻し。最初からやり直しだ。

通信インフラの現場では、これが部署の数だけ発生する。前の記事で書いた9部門が、それぞれ独自のExcelを持っている。部門間のデータ受け渡しは、すべて人間APIだ。

2. CSV変換リレー

システムAからCSVをエクスポート。Excelで開いて列を入れ替え、日付フォーマットを変換し、コードをマッピング表で置換する。加工が終わったらシステムBにインポート。

これを「データ連携」と呼んでいる会社がある。 連携しているのはシステムではない。人間だ。

私がKDDI案件でACCESSとExcelマクロを自作して工程管理システムを作ったのは、まさにこのCSV変換リレーに限界を感じたからだ。50名規模のプロジェクトで、毎朝2時間をこの変換作業に費やしていた。ある日、変換ミスで工程が1日ずれた。影響は複数部署に波及し、リカバリーに丸2日かかった。「これを人間がやり続けるのは無理だ」——そう思って、自分で仕組みを作った。

3. メール転送→コピペ入力

取引先からメールで届いた情報を、社内システムに手入力する。添付のPDFを開き、数値を目で読み取り、入力欄に1つずつ打ち込む。

「メールで届くから仕方ない」。 本当にそうだろうか。メールで届くことと、手入力することは、別の問題だ。しかし現場ではこの2つがセットで「業務」として定着している。

Excel転記・CSV変換リレー・メールコピペの人間API3パターン比較

見えないコスト——人間APIの代償

人間APIが恐ろしいのは、コストが見えないことだ。

時間コスト。 1回の転記に15分。1日3回で45分。月に20日で15時間。年間180時間。丸々1ヶ月分の労働時間が、データの引っ越しに消えている。 しかもこれは1人分だ。部署に5人いれば900時間。

ミスのコスト。 人間は間違える。入力ミス、コピペ漏れ、フォーマット違い。1件のミスが差し戻しを生み、差し戻しが手戻りを生み、手戻りが残業を生む。以前の記事で書いたように、人間のバグ率は1-4%だ。1000件のデータを手入力すれば、10-40件のミスが確率的に発生する。

属人化のコスト。 「このCSVの変換は田中さんしかできない」。マッピング表は田中さんの頭の中にある。変換ルールは田中さんのExcelマクロに埋まっている。田中さんが休むと、業務が止まる。

引き継ぎのコスト。 田中さんが異動する。後任に引き継ぐ。「このマクロの意味がわからない」。引き継ぎに3ヶ月かかる。3ヶ月間、2人分のリソースが引き継ぎに費やされる。

人間APIの見えないコスト — 時間180h/年、ミス1-4%、属人化、引き継ぎ3ヶ月

なぜ改善されないのか

これだけのコストを払っているのに、なぜ人間APIは改善されないのか。正直に言えば、私は約20年この問題を見続けてきた。現場が変わっても、会社が変わっても、同じ構造がある。

「動いているから」。 現行踏襲という呪いと同じ構造だ。今の方法で業務は回っている。誰も困っていない(ように見える)。だから変える理由がない。

「自分の仕事だと思っているから」。 これが一番根深い。データの引っ越しを、自分の本来の業務だと認識している人が多い。違う。あなたの本来の仕事は、そのデータを使って判断することだ。「手段」が、いつの間にか「目的」になっている。

「予算がつかないから」。 システム連携のAPI開発には費用がかかる。数百万から数千万。経営者は「今のままで回っているのに、なぜ金をかけるのか」と言う。そう言われるたびに思う。あなたの社員が毎日2時間、データの引っ越しに使っている人件費は見えていますか?

まず「気づく」ことが第一歩

人間APIを全廃する必要はない。しかし、「自分が今やっている作業は、本来システムがやるべき仕事だ」と気づくことが第一歩だ。

気づいたら、次にやることは可視化だ。

  • 1日にエクスポート/インポートを何回やっているか
  • 1回あたり何分かかっているか
  • 月間で何時間がデータの引っ越しに消えているか
  • その作業ができるのは何人か(属人化の度合い)

可視化すると、数字が出る。数字が出れば、改善の優先順位がつけられる。「なんとなく無駄」ではなく「月15時間の無駄」と言えるようになる。 そうなれば、予算の議論もできる。

最近ではMCPのように、AIがシステム間のデータ連携を仲介する仕組みも出てきた。MCP実演では2-3時間の作業を約1分に短縮した実績もある。人間APIの代替手段は、確実に増えている。

気づく→可視化する→改善するの人間API改善3ステップ

まとめ:引っ越し屋をやめろ、とは言わない

人間APIは構造的な無駄だ。しかし、明日からすべてをやめろとは言わない。

まず気づくこと。自分の仕事のうち、どれだけが「データの引っ越し」なのかを把握すること。そして、最もコストの高いところから、少しずつ改善していくこと。

止めるなで書いた「止まる時間が一番高い」は、部署間連携のマクロな話だった。人間APIは、その「止まる構造」を日常レベルで支えているミクロな正体だ。

あなたは今日、何回エクスポートしましたか?


部署間連携の構造的な問題については止めるな|法令15本・10部門を横断する通信インフラの「見えないコスト」で詳しく書いています。レガシーシステムを変えられない構造については現行踏襲という呪いもあわせてどうぞ。

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