マレーシアで事業拠点を立ち上げた。
日本からチームメンバーを迎え入れ、現地でプロジェクトを回す。1人ではなくチームで事業を大きくしていく。そんなビジョンを描いていた。
結果として、チーム体制は半年で崩れた。 数百万円の採用投資が消えた。
この記事は成功談ではない。海外でスタートアップを立ち上げるとき、何が起きるかわからない環境で「人を採用する」ことのリスクを身をもって経験した記録だ。そして、その経験からAIを選び、事業を前に進めている現在の話だ。
海外は、何が起きるかわからない
マレーシアの活動拠点に、日本からメンバーを迎え入れた。ビザの手配、住居の準備、現地の受け入れ体制の構築。1人あたり数百万円の投資だ。
しかし、海外拠点の立ち上げは想定外の連続だった。
生活環境が人を変える。 言語、食事、気候、人間関係。日本にいたときには想像できなかったストレスが日常的にかかる。「海外で働きたい」という意欲と、実際に海外で走り続ける力は、まったく別物だった。これは本人の問題ではない。海外に来てみなければわからないことだ。
経営者とメンバーの見ている景色が違う。 スタートアップの立ち上げに必要なのは、自分で課題を見つけて動く姿勢だ。しかし、メンバーが求めていたのは「海外経験」であって、「ゼロから事業を作ること」ではなかったのかもしれない。この温度差は、日本にいるときには見えなかった。
想定外のコストが積み上がる。 ビザ費用、渡航費、住居手配だけではない。案件が遅延すればクライアントへの謝罪対応が発生する。体制の立て直しにも時間がかかる。海外拠点では、1つのトラブルが国内の何倍もの波及効果を持つ。
結局、メンバーは短期間で離れていった。それぞれに事情と判断があったと思う。誰が悪いという話ではない。海外スタートアップとは、そういう不確実な環境だ。
1人で全案件を巻き取った日々
チームが抜けた後、進行中の複数案件はすべて私1人でやることになった。
設計、フロントエンド実装、バックエンド開発、クライアント対応。もともと私がやっていたPM業務に加えて、チームに任せる予定だった開発案件がすべてのしかかってきた。クライアントへの説明と謝罪も必要だった。
さすがにきつかった。
マレーシアで私たちの活動をサポートしてくれた現地の方々にも、申し訳ない思いがあった。ビザの手続き、オフィスの手配、生活面のフォロー。多くの人が時間と労力をかけて受け入れてくれたのに、期待に応えられなかった。だからこそ、この経験を無駄にせず、結果で恩返しをすると決めた。
Claude Codeとの出会い
ここで生成AIに、本当に救われた。
ちょうどこの時期、Claude Codeが急速に進化していた。2025年後半から2026年にかけて、AIの開発能力は劇的に向上した。
チームがいた頃は「AIは便利なツール」程度の認識だった。しかし1人ですべてをやらなければならなくなった瞬間、AIの使い方が根本的に変わった。
「便利なツール」から「開発パートナー」へ。
設計は自分でやる。だがフロントエンドもバックエンドも、Claude Codeと一緒に作る。最初は不安だった。しかし、プロンプト設計と開発手法を磨いていく中で、AIの出力品質は実務レベルに達していた。
何より大きかったのは、AIには「想定外」がないことだ。
海外でメンバーと働いていたとき、毎日が想定外だった。体調を崩す、モチベーションが下がる、環境に馴染めない、価値観がぶつかる。人間だから当然のことだが、スタートアップの立ち上げ期にはその「当然」が致命傷になる。
AIは指示を出せば動く。体調不良もない。環境ストレスもない。退職もしない。不確実な海外環境で唯一確実に計算できるリソースだった。
これがなければ、事業を続けられていなかっただろう。
冗談ではなく、本気でそう思っている。
不確実な環境こそAI
この経験を乗り越えて、1つの確信を得た。
海外のような不確実な環境でスタートアップするなら、まずAIで体制を作るべきだ。
日本国内のスタートアップでも採用リスクはある。だが海外では、そのリスクが何倍にもなる。文化の違い、生活環境の変化、言語の壁、孤独感。日本では起きない問題が次々と起きる。人に依存した計画は、これらのどれか1つが引き金になって崩れる。
であれば、不確実な変数を最初から排除したほうがいい。
SpaceX的発想:まず軌道に乗せる
SpaceXのロケットは、地球の重力圏を脱出して軌道に乗るまでが最もエネルギーを消費する。一度軌道に乗れば、慣性で動き続けられる。
事業も同じだ。立ち上げから軌道に乗るまでが最も苦しい。
この最も苦しいフェーズで採用に頼るのは、ロケットに不安定な燃料を積むようなものだ。特に海外では、不安定さが国内の比ではない。立ち上げ期に必要なのは無理を承知で走り続ける覚悟だが、それを一緒に働く仲間に求めるのは難しいし、当てにした計画が崩れたときのダメージは計り知れない。
AIと仕組みで軌道に乗せる
今の私の戦略はシンプルだ。
軌道に乗るまでは、AIと仕組みで回す。軌道に乗ってから、人を迎え入れる。
- 設計・PM・顧客対応:自分が担当(人間にしかできない領域)
- フロントエンド・バックエンド開発:Claude Codeが担当
- 分析・リサーチ:AI社員が担当
- コンテンツ制作・マーケティング:AI社員が担当
この体制で5つのプロジェクトを同時に回している。Webアプリ開発、データ分析基盤、コンテンツ制作まで、すべてAIとの協業だ。人件費を最小限に抑えながら、事業を前に進められる体制ができた。
「人を雇うな」ではない
誤解してほしくないのは、「人を雇うな」と言いたいわけではないことだ。
人間にしかできないことは山ほどある。顧客との信頼構築、チームの文化づくり、創造的な意思決定。AIにはまだできないことだらけだ。
言いたいのは、順番の問題だ。
| フェーズ | 体制 | 目的 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期 | 創業者 + AI社員 | 最小コストでプロダクトを作り、市場を検証する |
| 軌道投入期 | 創業者 + AI社員 + 業務委託 | 仕組みを回しながら、収益を安定させる |
| 成長期 | 創業者 + AI社員 + 正社員 | 事業拡大に合わせて、人間のチームを構築する |
軌道に乗る前に正社員を抱えるのは、ロケットに余分な荷物を積んで打ち上げるようなものだ。まず小さく作り、AIと仕組みで回し、実績を積み、収益を安定させてから、人を迎え入れればいい。
海外でスタートアップを考えている人へ
同じ壁にぶつかってほしくないから、率直に伝える。
- 海外は想定外の連続だと覚悟する:日本で通用した前提は、海外では通用しない
- 不確実な環境では、確実なリソースを選ぶ:AIは体調を崩さないし、環境ストレスも受けない
- 軌道に乗るまでは小さく作る:AIと仕組みで最小限の体制を構築する
- 採用は軌道に乗ってから:事業モデルが検証され、キャッシュに余裕ができた後に人を迎える
- AIを最大限活用する:2026年のAIは、スタートアップの立ち上げに十分な戦力になる
- 支えてくれる人への恩を忘れない:海外では現地のサポートなしに事業は成り立たない。その恩に報いる結果を出す
まとめ
マレーシアで事業拠点を立ち上げ、チーム体制を作ろうとして、壁にぶつかった。数百万円の採用投資が半年で消えた。
海外スタートアップは、何が起きるかわからない。文化の違い、環境の変化、予期しないトラブル。人に依存した計画は、これらの不確実性に対して脆い。
しかし、その経験があったからこそ気づけた。不確実な環境でこそ、AIという確実なリソースが活きる。
Claude Codeと出会い、AI社員という概念を実践し、1人で5案件を回せる体制を築いた。失敗がなければ、今の自分はない。
SpaceXのロケットも、何度も失敗してから軌道に乗った。大事なのは失敗しないことではなく、失敗から学んで打ち上げ続けることだ。
PMBOK-AIは、この経験から生まれた実践知でもある。AIと人間のハイブリッドチームで事業を回す方法に興味がある方は、ぜひご覧ください。