同期という名の鏡
同期が怖い。
そう感じたことはないだろうか。
同じ日に入社した。同じ研修を受けた。同じ職場にいる。
なのに、あの人はもう仕事を任されている。あの人は上司に褒められている。
自分はまだ、基本的なことも覚えられていない。
同期は、友人でもあり、鏡でもある。
そして時に、最も残酷な比較相手になる。
フェスティンガーが見抜いたこと
昨日も少し触れたが、もう少し深く見てみたい。
レオン・フェスティンガーは1954年の論文で、こう書いた。
「人は客観的な測定手段がないとき、能力の評価において自分に似た人と比較する傾向がある」
ここで重要なのは「似た人」という部分だ。
遠い存在とは比較しない。
イチローと野球の上手さを比べて落ち込む人は少ない。「次元が違う」と思えるからだ。
でも、同期とは、距離が近すぎる。
同じ年齢。同じ学歴。同じスタートライン。
だから、差が見えるたびに「自分だけができていない」という感覚が鋭くなる。
SNS時代の比較地獄
フェスティンガーが生きた時代、比較は「見える範囲」だけで起きた。
今は違う。
Twitterを開けば、同世代の若者が「入社2ヶ月で新規プロジェクトを任された」と書いている。
LinkedInを見れば、同期が資格を取ったと報告している。
Instagramには、仕事後に充実した顔が並んでいる。
SNSは「ハイライトリール」だ。
人は自分の最も良い瞬間を投稿する。失敗、迷い、泣いた夜は投稿しない。
だからフィードは「できる人たちの世界」に見える。
2013年、カリフォルニア大学サンディエゴ校のホリー・シャキャらの研究は示した。
Facebookを受動的に閲覧するほど、「自分は他者より劣っている」という感覚が強まる。
見るだけで、落ち込む。
SNSは、比較機械だ。
ダニング=クルーガー効果の、逆側
ダニング=クルーガー効果という心理現象がある。
1999年、コーネル大学の心理学者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが発表した。
能力の低い人ほど自分の能力を過大評価し、能力の高い人ほど過小評価する傾向がある。
有名なのは「能力の低い人が自信満々」という側面だ。
でも、もう一方を見てほしい。
能力が上がるほど、「自分はまだまだだ」という感覚が強くなる。
つまり、成長しているからこそ、「できない」と感じやすくなる。
「できない」と感じているあなたは、成長の途中にいるのかもしれない。
何も感じないのは、まだ「できない」ことに気づいていない段階だ。
「できない」と感じられるのは、「できる」の輪郭が見えてきた証かもしれない。
同期は、見えていない
もう一つ、大事なことがある。
同期の「できている面」は見える。
同期の「できていない面」は見えない。
職場で起きていることの多くは、非公開だ。
誰かがミスしても、それは広まらない。誰かが泣いても、それは個室で起きる。
「あいつはできる」と思っている相手が、実は毎晩ひとりで悩んでいることがある。
2017年、カリフォルニア大学の研究者アレックス・ジョーダンらは、こんな調査を発表した。
学生たちは「他の学生はポジティブな感情をより多く経験している」と信じている。
でも実際には、そうではない。
人は他者がポジティブな感情を体験していると過大評価し、ネガティブな感情を過小評価する。
「あの人は楽しそうにやっている。自分だけ苦しい」。
それは、錯覚かもしれない。
鏡に映るのは、自分だけではない
「同期」という存在は、不思議だ。
同期が活躍していると、焦る。
同期が苦労していると、少し安心する。
その「少し安心する」感覚を、後ろめたく思う人もいるかもしれない。
でも、これは自然な心の動きだ。
社会的比較は、人間の認知の基本動作に組み込まれている。
問題は、その比較が「正確かどうか」ではないだろうか。
同期の見えている面だけを見て、自分の全体を評価している。
これは、比較として公平ではない。
比較するなら、同じ条件で比べるべきだ。
同期の「見えている面」と、自分の「見えている面」だけで比べる。
あるいは、同期の「見えていない面も含めた全体」と、自分の「全体」で比べる。
どちらかしか、正しい比較ではない。
ここまでの気づき
- 同期は最も「似た存在」だから比較が鋭い。でもSNSや職場で見えるのは「ハイライトリール」だけで、苦労や失敗は見えない
- ダニング=クルーガー効果の逆側:「できない」と感じるのは、「できる」の輪郭が見えてきた証拠かもしれない。成長が自己評価を厳しくする
- 「あの人は楽しそう、自分だけ苦しい」は認知の歪みだ。他者のネガティブな感情は、システマティックに過小評価される
明日へ
「できない」を感じさせる構造は、学校だけではなかった。
企業もまた、新人に対して「即戦力」を求めるようになった。
でも、それはいつから始まったのだろう。
そして、その構造は、誰のためにあるのだろうか。
💬 同期と比べて焦った経験はありますか? そのとき、どうやって自分と向き合いましたか? コメントで聞かせてください。
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